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 30分程歩いた王都の南側。


 薔薇の生垣に囲まれているのがキャロルの実家だ。


 最後に来たのはいつだったのか。


「へー、なかなか広い家だね。」


「そうですね。

 確か魔術師会に所属する際に挨拶に来たのが最後なので10年近く私も来てませんでしたが。

 なのでぶっちゃけ自分の部屋がどこなのかも分かりません。」


「まっ探せば分かるよ。

 まずは母君を探そうか。」


 ルシウスの言葉に頷いて家の裏手に回る。


 生垣の隅に穴が開いているのを見つけそこから忍び込んだ。


 汗を含んだズボンに土が着き既に汚れている。


 辺りを見渡すと広々とした花壇が広がっている。


 東屋もあるのだからここは庭園なのだろう。


「立派な庭だね。」


「みたいですね。

 私も初見ですが。」


「さて母君を探すとは言ったけど一体どうやって屋敷に忍び込もうか…。」


 庭園に人影はないが屋敷にはもちろん使用人がいるだろう。


 見つかったら確実に捕まる。


 しかも実家とは言え中がどうなっているのかさっぱり分からない。


 ここまでの道も地図と格闘しながら来たのだ。


 クリスに聞いてくれば良かったとキャロルは肩を落とす。


 まあ聞いたら不審がられる為聞けるはずもないのだが。


「まあ今は使用人達も色んな所にいるだろうし行くのは得策じゃないよね。

 夕食時になれば厨房かホールにいるからそれまで大人しくしてようか。

 しかもキャロルは母君に似てるんだろう?

 髪を切ったとは言え見つかったら修羅場になるだろうし。」


「そうですね。

 母の知らない親戚か生き別れの兄弟か隠し子。

 どれも確実に修羅場を迎えます。」


「未来から来た娘ですって正直に言ってみるのは?」


「魔術師に絶対逃げられますし即病院付きの牢屋に入れられますね。

 殿下こそ未来の王太子ですってバラしたらいいじゃないですか。」


「王族を騙った罪で処刑台へまっしぐらだね。

 そんな場所で3歳の私には会いたくないかな。」


「まっ暗くなるまでここで待ちますか。」


「そうだね。

 暑いけど仕方ない。」


 ルシウスが首元のボタンを外し扇ぐ。


 そう言えば最初の頃はこいつは汗をかかない奴なんだと思っていたなと何となく思い出す。


 1年程しか経っていないのにやけに懐かしい。


「…というかほんと暑いですね。

 なんか飲み物買って来ましょうか?

 このままだと多分暑さで死にます。」


「そうだね。

 じゃあ一緒に行こうか。」


「よろしければこちらをどうぞ。」

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