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「よし、とりあえずキャロルの実家に行こうか。
キャロルの母君が既に操られていてもこの後操られるにしても母君の近くにいれば魔術師に会えるはずだからね。」
「そうですね。
行きましょうか。」
そう言いながらもキャロルの声は一瞬震えてしまう。
ずっと憎んでいた母親に会う。
ずっと憎まれていたと思っていた母親に会う。
見るだけとは言え怖くて堪らない。
「キャロル?」
ルシウスが立ち止まっているキャロルの顔を覗き込んだ。
ルシウスの深海の様な瞳がキャロルをじっと見詰める。
ルシウスはふわりと目尻を下げた。
「…大丈夫だよ。
見るだけなんだから。
それにちゃんと自分の目で見て判断しないと後悔するってキャロルが弟に教えたんでしょ?
ハリーから聞いたよ。」
「…そうですね。」
キャロルは胸を抑えながら頷く。
大丈夫だ。
見るだけなのだ。
別に何か話すわけじゃない。
何を怖がる必要がある。
だが鼓舞する声とは裏腹に足は竦んでしまっていた。
膝の震えが止まらない。
自分はこんなにもいつの間にか家族を、母親を恐れていたのか。
視界に入れる事さえ拒絶してしまう程に。
操られていたと知っても受け入れられない程に。
俯いていたキャロルをふわりとルシウスの匂いが包んだ。
後頭部に置かれた掌がゆっくりとキャロルを撫でる。
「息を大きく吸ってごらん。
大丈夫だから。
そんなに怯えなくても怖くないから。
…そうゆっくり吐いて。」
ルシウスの声に合わせてゆっくりと息を吐く。
上手く呼吸さえ出来ていなかったのか先程より景色がはっきりと見える。
膝の震えもいつの間にか止まっていた。
「…ありがとうございます。」
「ん、どういたしまして。」
そう言いながらまだルシウスはキャロルを抱き締めたまま頭を撫で回している。
暑苦しい上にウザイ。
この前から撫で癖の上に抱き着き癖まで付いた気がする。
スキンシップ過剰にも程って物がある。
ここで諦めて妥協したら悪化の一途を辿る気しかしない。
「離して貰って良いですか?」
「ん?
どうして?」
「暑苦しいし鬱陶しいからです。」
「婚約者なら普通の行為だけど?」
「候補なんで当て嵌らないかと。
まじで暑いんで離して下さい。」
ルシウスは仕方ないなあとキャロルを解放した。
だが急に顎に手を当て何やら考え込んでいる。
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