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 睨み合っているキャロルと純白の巫女に向かって石床を叩く靴音が近付く。


「こらこら。

 私はお願いして欲しいと言っただけで脅せとは言ってないだろう?」


「お願いも脅しも似たような物かと思いまして。」


 ルシウスの登場に純白の巫女の顔色が余計に悪くなった様に見える。


 純白の巫女はこの似非王太子がかなり苦手らしい。


「やあ、久しぶりだね巫女殿。」


「おっお久しぶりですにございます…。」


「ごめんね、キャロルに女同士の方が良いかと思ってお願いに行って貰ったらまさか脅しているとは思わなくて。」


 謝るルシウスの笑顔がキラキラと輝いている。


 巫女は謝られて少し落ち着いたのか肩の力が抜けた。


「いえ、別に大丈」


「キャロルは脅し方を分かってないからね。

 不快な思いをさせて悪かったよ。」


「……は?」


 ルシウスは相変わらずニコニコと笑顔のまま懐から羊皮紙の束を取り出した。


 受け取った巫女の顔から血の気が引き土気色になっている。


 もはや死人の顔色だ。


「身分証偽装にヴァール国での強盗、詐欺事件による指名手配、我が国への密航。

 これ誰の事か分かるよね?」


「…こ、これ…は…その…。」


「ヴァール国がやけに探してて賞金も高額になってるんだよね。

 我が国から引き渡せば恩もかなり売れると思わないかい?」


「…いやあの…その…待って…。」


「ああ安心して?

 まだ私達しか知らないから。」


 眩しいくらいの笑顔でルシウスは腰を屈め巫女に顔を近付ける。


「協力したくならないかい?」


 巫女に残された道は頷く事だけであった。







「…この国ヤバイわ。

 次期国王と次期王妃が両方サイコパスなんて。

 亡命しなきゃ。」


「ヴァール国とやらが手ぐすね引いて待ってんじゃないですか?」


「その名前を出さないで頂戴。

 金髪魔王の顔がチラついて寒気がする。」


 巫女は先程のルシウスのお願いがトラウマになってしまったらしい。


 自分の掌で両腕をさすっている。


 キャロルは無視して本を片手に床にチョークで魔法陣を書いていく。


「というか本当に何するつもりなのよ?

 協力するんだからいい加減に教えなさいよね。」


「巫女様は未来や過去が見えるなら見たら良いではないですか。」


 キャロルの言葉に巫女は舌打ちをする。


「あのねえ、言ったでしょ。

 かなり断片的だって。

 …それに今はあんた達の先が何も見えないのよ。」

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