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 ハリーは俯いたまま動かない。


 少々言い過ぎたかとキャロルはローテーブルを直しながら横目で見る。


 床も陶器の破片と紅茶と羊皮紙で大変な事になっている。


 何故ローテーブルを蹴るなどという愚行をしてしまったのだ。


 5分前のキャロルを全力で止めたい。


「…お前から見てどう思う。」


「はい?」


「お前から見た俺はどう見えてるんだと聞いている。」


「自分に自信のない卑怯者ですね。」


「なっ!!?」


 キャロルの言葉に怒り一瞬立ち上がろうとするがまたハリーは腰を下ろし片手で前髪をくしゃりと掴んだ。


「……兄上を認めてしまったら俺に何が残る。」


 ハリーの顔が歪んでいる。


 本当はずっと認めたくないだけで心の底では認めていたのかもしれない。


「…皆俺の方が王に相応しいと言う。

 だが理由は血筋だ。

 血以外何も勝てない俺に何が出来る。」


「…その血をあなたの兄は喉から手が出る程欲しがってると思いますけどね。

 あとあなたの様に王に相応しいと言ってくれる沢山の仲間も。」


 キャロルの言葉にハリーは顔を上げる。


「血も仲間もあなたの持つ武器です。

 そこは誇れば良い。

 他が足りないのなら努力して補えば良い。

 まっこれはあなたのお兄さんの言葉も入ってるんですけど。」


 キャロルの言葉にまたハリーは俯く。


「…皆、俺を肯定するんだ。

 でも影では魔力も武術も知能も兄上に勝てない奴だと馬鹿にしてる。

 何度も耳にしたんだ。

 …お前みたいに本人がいなくとも庇ってくれる味方はどうやったら出来るのかもさっぱり分からないんだ。」


 キャロルは頬杖を着きながらため息を吐く。


「私は別にお兄さんの味方でもありませんよ。」


「だがさっきお前は兄上の事を言われて怒ったじゃないか。

 …俺にはきっとそんな味方いない。」


「だから味方じゃありませんって。

 私あいつにちょいちょい殺意を覚えますし。

 ただあいつが努力しているのは知っているから事実を述べただけですよ。」


 キャロルがそう言うとハリーがおずおずと顔を上げた。


「…なら俺が努力すればお前は俺の事も庇ってくれるのか?」


「まあそりゃあ。

 努力してる事を知っていれば否定はすると思いますよ。」


「…そっか。」


 ハリーはそう言うとまた俯いてしまった。


 キャロルは羊皮紙に目を落とす。


 喋る気はなさそうだししばらく放っておこう。

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