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「あいつは生まれた時に実母を殺す程の魔力を持った化け物なんだ。

 あんな奴と比べられてたまるか。」


 キャロルは拳を握り締める。


 奴の事は気に食わない事ばかりだ。


 性格も難があるしいつもキャロルを馬鹿にする。


 でもあいつが毎晩隈を作りながら執務をしている事を知っている。


 災害があれば城を飛び出し先陣で指揮をとっている事も知っている。


 色々な所へ視察に行き何とか貧困を減らそうと足掻く姿だって知っている。


 それも全て化け物だからと言われてしまうと言うのか。


 あいつが殺してくれと懇願した事も何もかも。


「…ならば何故化け物と罵る者の成した功績まで奪うのですか。」


「ーっ!

 うっ奪ってなど」


「バヌツスの件。

 あれは私も同行しています。

 ハリー殿下が参加していた記憶はないのですが。」


「…それは母上が勝手にした事だ。

 俺は何もしていない。」


「ならば何故否定しなかった!!!」


 キャロルはローテーブルを蹴り上げる。


 机に乗っていた茶器等が床にぶちまけられ音を立てて割れた。


「あなたなら出来たはずだ!!

 化け物と罵りながら何故あいつが自分で作った身を守る物まであなたは取り上げた!?

 殺してくれと懇願する気持ちがあなたに分かるか!!

 何度も家族に死を願われる絶望があんたに分かるか!!

 誰にも必要とされていないと思う苦しみがあんたに分かるのか!!」


 キャロルもそうだから分かるのだ。


 誰にも望まれず死を救いと感じる絶望をキャロルは知っている。


 あの絶望の淵を延々と歩いているあの苦しみを。


 キャロルの激昂に何も言わずハリーは目を見開いていた。


 キャロルも一旦息を吸い込む。


 怒鳴ったのなど久しぶりだ。


「ハリー殿下には自分の目で見る力がないのですか?

 あなたから見て本当に兄は心のない化け物なのですか?

 …私にはそうは見えません。

 あいつはいつだって自分の存在を認めて貰おうと居場所を求め足掻き、奪われる事に怯えています。

 そんなあいつが化け物だと。

 心がないとハリー殿下は本当に思うのですか?」


「…俺は」


 ハリーは何か言いかけて口を閉じてしまう。


 何か思う所があるのかもしれない。


「…聖女の事もそうです。

 あなたはもう少しご自身の目で見た方が良いと思います。

 自分の目で見て考えた事こそが真実だと私は思うのです。

 …きっとそうすれば少しはあなたの視野も広がるはずです。」

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