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「お前、聖女に要らん事を教えた上に兄上との仲を深めようとさせているらしいな。

 一体どういうつもりだ。」


「…要らん事とやらは確かに教えたかもしれませんが後半は私には関係ありませんね。

 聖女様がご自身でなさっている事です。」


「貴様!」


 ハリー第二王子が腰の剣に手を掛ける。


 キャロルは羊皮紙から顔を上げた。


「ハリー殿下。

 剣を抜かれても構いませんが私が反撃する事も許して下さいね。」


 キャロルの漆黒の瞳にハリーは怯んだのか剣から手を離しギリっと奥歯を噛み締める。


「…言わせて頂けるのであれば聖女様が望む事を全て取り上げ思い通りにしようとする人間から逃げたいと思うのは当然では?」


「必要ないから必要ないと言っただけだ。

 それの何が悪い。」


「必要か不必要かなど本人が決める事でしょう。

 ハリー殿下には不必要でも聖女様には必要かもしれない。

 それさえも理解出来ないから逃げられるんじゃないんです?」


「将来王族となり現在戦争も起こっていない!

 そんな中まずは文字や歴史や風土について学ぶ事の何がおかしい!」


「そうですね。

 それ以外の時間に聖女が学びたいと思った魔術を学ぶ事を許していたならばおかしくはないと思いますよ。

 何故聖女様に初級以上の魔術を教えるなと仰ったのですか。」


「それはだから現在戦争もなく」


「違いますよね。」


 キャロルはハリーを睨み付ける。


 ずっと腹が立っていたのだ。


 制限をかけたこいつに対して。


 王族に逆らえず彩花嬢に何も出来なかった自分に対して。


「ハリー殿下はご自分が降臨したばかりの聖女に負けるのが嫌だったから教えるなと仰った。

 そうですよね?」


 キャロルの射抜く様な視線にたじろいだのかハリーは何も答えない。


「ハリー殿下は魔術は不要だと仰いますがこの王都や王宮のどれだけの物が魔術を元に作動してるとお考えなのですか。

 知っていれば自分より出来て欲しくないだのと言う戯けた発言は出来るはずがない。

 知識がなければ国を豊かに等出来ないから。

 実際ルシウス殿下は今回王都中に魔法陣を引く事業を考案されています。

 あなたは恥ずかしくないのですかハリー殿下。」


「兄上と比べるな!

 あいつは化け物だ!!

 笑っていながらも人の心などない力だけ持った化け物だ!!!

 王宮中がそう言っているのを知らないのか!!」


 化け物。


 ずっとあいつはそう言われていたのか。


 何か功績を上げても化け物だと呼ばれていたと言うのか。

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