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「ただ彩花様。

 私は魔術師です。

 王都や王宮の設備はほぼ全て魔術師会の魔法陣や魔道具で賄っているんですよ。

 無駄な学問だと王族の方に言われるのは私も心外です。」


 キャロルの言葉に彩花嬢は顔を上げる。


「他の学問やマナーも勿論大切ですよ。

 でも魔術は必要ないなんて言われては魔術師として黙っていられません。」


 キャロルは椅子から立ち上がった。


「ハリー第二王子や王妃様から彩花様に初級魔術以上は教えるなと言われてしまっているので私が教えられるのは初級魔術のみとなります。」


「そんなあ…。」


「大丈夫ですよ彩花様。

『ウォーターボール』。」


 キャロルの詠唱と共に掌に出来た水の球を指先で動かし飛ばす。


 キャロルの飛ばした水の弾は轟音と共に庭に生えていた木々を薙ぎ倒しながら一直線に飛んで行きやがて見えなくなった。


 遠くで爆発音がしたが気にしない。


「…すっごい。」


「これだってウォーターボールという列記とした初級魔術です。

 要は魔力量さえ変えれば初級魔術でも充分戦えるんですよ。」


「じゃああたしにも出来るかな?!」


 キャロルは肩を竦めて煽る。


「さあ?

 出来るかどうかではなく、やるかどうかでは?」


「よーし!

 あたしだって聖女だもん!

 やるぞー!!!」


 彩花嬢は顔をパシンと叩いて気合いを入れている。


 元気が出てきたようだ。


 キャロルはまた椅子に腰掛けて紅茶に手を伸ばす。


「では今日はウォーターボールを飛ばして対象物に当てる練習をしましょうか。

 まあそれもやはりイメージなので飛ばして当てる事をとことん想像する、それだけです。

 対象物はあの木にして今日はあの木を倒せたら終わりにしましょう。」


「分かった!

『ウォーターボール』!!!」


 この子はやはり根は素直な子なのだろう。


 ルシウスの言う通り王妃様達の思惑で真綿に包まれるようにダメになっていってしまうのは何だか忍びない。


 キャロルに出来るのは魔術師として魔術を教える事だけではあるが身を守る術はいくつあっても無駄にはなるまい。


 薄暗くなり倒れた木を見て飛び跳ねている聖女を見ながら思う。


 派閥や王位争い等煩わしい物はあるが彼女には何の罪も無いではないか。


 ならばこそキャロルが教えられる事は彼女が望む限り教えてやろうと。







 キャロルに聖女の教師役を下りる様通達が来たのはその日の夜であった。

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