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 2週間後。

 キャロルを呼びに来た神官から告げられた言葉にキャロルは耳を疑った。


 魔術は光魔術以外は初級までしか教えない事。


 理由はまだ聖女様には早いから等と最もな事を言っていたが神官がポロッとハリー第二王子様がまだ初級しか出来ないからと漏らした事でそちらが本音だと察した。


 要は自分以上に出来るようにさせたくないのだ。


 キャロルは何となく腹が立つ。


 彩花嬢を見る限り褒めてはいないが魔力について何も分からない少女が初日で魔術を失敗ながらも発動させたのだ。


 才能はあると判断している。


 その才能を伸ばすなと言われるのは魔術師として許し難い。


 キャロルはモヤモヤしながら神官の後ろを歩く。


「…こんにちはキャロルさん。」


 彩花嬢も何だか今日は元気がない。


 一体どうしたと言うのだ。


「…ごめんなさい。

 宿題がまだ出来てないです。」


 手紙で苦情を言ってきた位だ。


 教会で宿題をやるなとでも言われたのだろう。


 キャロルは椅子に座り頬杖を付く。


「…やってみてどうでしたか?」


「…最初は大変でした。

 壁壊しちゃったり何回も倒れちゃって。

 でも少しずつ長く出せる様になってその…。」


 彩花嬢が悔しそうに唇を噛み締める。

 キャロルはその顔を見ながら問い掛けた。


「…彩花様は魔術は楽しいですか?」


「楽しいです!

 魔力切れはすっごいダルかったけど自分の手の中の水の球が宝石みたいでめちゃくちゃ綺麗で!

 あたしこの世界に来て色んな勉強してるけど魔術は初めてもっと覚えたいって思えて!!」


 そこまで熱弁を振るってからハッとした様に彩花嬢は口を閉じる。


「…でもハリー君や王妃様は他の事をもっと学ぶべきだって。

 今は戦争をしている訳でもないから聖女の光魔術以外は基本的な事以上に習得する必要はないからって。」


 確かに第二王子と婚姻する以上魔術は必須ではない。


 むしろ王族として他の学問を勉強する方が理にかなっているだろう。


「まあそれは間違っていませんね。」


「…そうなんだ。」


 キャロルの言葉に彩花嬢は肩を落とす。


 漸く自分にも出来るかもしれない、楽しいと思えた事が否定されたのだ。


 しょげるのも無理はない。

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