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 ルシウスは冷たい瞳でキャロルを見下ろす。


 一体何が言いたいのだこいつは。


 太陽が沈み始め濡れたシャツのままのキャロルにとっては少々肌寒い。


 いい加減着替えに行かせてくれないだろうか。


「…ねえキャロル、無知の罪ってあると思わない?」


「無知の罪ですか?」


「そう。

 無自覚なのも知識がないのも仕方ないけれどそれにしても限度はあると思わないかい?」


 そう言ってルシウスはキャロルの首筋を指先で撫でる。


 一体何をしようとしているのか分からずキャロルは固まるしかない。


「ねえキャロル。

 着替えるんでしょ?」


「はい、そうですが。」


「なら着替えさせてあげるよ。」


 ルシウスはそう言うとシャツのボタンに手を掛けてくる。


 何を考えているんだこいつは!


 キャロルは慌てて後ろに飛び退いた。


 さすがに人前で素っ裸になってはいけない事位キャロルだって知っている。


 そんな変態じみた趣味もキャロルにはない。


「じっ自分で出来るので大丈夫です。」


「そう?

 さすがにそこら辺の知識はあるんだね。

 安心したよ。」


 そう言いながらジリジリと間合いを詰めて来る。


 キャロルもジリジリと後退るが肩を捕まれあえなく失敗に終わってしまう。


「知っているのに何でこんな格好してるの?」


 ルシウスの手がキャロルの二の腕を撫でる。


 キャロルの格好は何の変哲もないシャツとズボンだ。


 いつも通りなのに何が悪いのか。


 他の女性達の様にドレスでないのが良くないのか。


 それこそ今更である。


「…いつもと同じ服装ですが。」


「ふうん。

 水に入ったら透ける事も分からなかったかい?

 ここまで言わなきゃ分からないのかなお子様キャロルは。」


 ルシウスに言われてシャツを見るが確かに腕の部分は透けていても下に肌着を着ている為問題があるとは思えない。


 そりゃあアグネス嬢の様な体型なら理解出来るがキャロルは自他共に認める幼児体型である。


 セーフであろう。


「…お見苦しい物を見せて申し訳ございませんでした。

 着替えて来るので離して下さい。」


「…全然分かってないねキャロル。」


 ルシウスの瞳が冷たく光る。


 キャロルはまた何か間違えてしまったらしい。


 模範解答集を用意しておいて欲しい。


 二の腕を掴んでいた掌に力が入る。


 いい加減離してくれないだろうか。

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