13

「見ろよワインスト嬢!

 あれ有名な操の崖だぞ!」


 …どうしてこうなっているんだろう。


「…レオン。

 流石に殿下の婚約者候補に別れの名所を嬉々として教えるのはどうかと思うぞ。」


「そんな名所があるのかい?

 初めて知ったよ。」


 リアムが苦虫を噛み潰したような顔で戒めるがルシウスはニコニコと笑って聞いている。



 …一体何故こうなったのだ。


 しかも開発に携わった自分でさえ1ヵ月前に予約して取れた魔道列車のチケットを何故奴らは3枚も一瞬で手に入れているのだ。


 しかも何故自分が悠々自適な旅をしようと予約しておいた個室に奴らがいるのだ。


 もう1つ言わせて貰えば自分が予約していた個室より明らかにランクが上の個室になっているのは何故なんだ。



 あの後ルシウスの執務室に引き摺られて行かれ諦めて無駄に豪華な朝食を食べている間に、目の前の男は全て終わらせていた。


 ついでにその側近2人もしれっと準備を終わらせていた。


 解せぬ。


 奴らは実は暇なんだろうか。


「あっ!

 今度は鎮守の湖だ!

 見えたかワインスト嬢!」


「だから何故お前は別れの名所ばかり教えるんだ?」


「へえ、あの湖もそんな名所なんだ。

 レオン詳しいね?」


 彼らは今メイドが持たせてくれたバスケットのサンドイッチを食べながら窓の景色を見てギャイギャイ騒いでいる。


 ルシウスはやはり無理矢理出て来ていたのか終わっていない書類の束をテーブルに乗せ執務をしながらであったが。


 キャロルも諦めて元々列車でしようと思っていた魔道具開発に取り掛かる。


「今度は何作ってんだ?」


 列車が田園地帯に差し掛かり暇になったのかレオンが羊皮紙を覗き込んできた。


「…個人的な趣味の物を。」


「へー?

 えっとなになに?」


 覗き込んで読んでいたレオンは興味本位の目をどんどんキラキラ変化させていく。


「えっ何これすげえよワインスト嬢!」


「ん?

 どうしたんだいレオン?」


「これあれだろ?

 まだ発掘調査しきれてない古代遺跡の隠し部屋なんかも見つかるって事だろ?

 えっ超面白そう!」


「…まあかなり魔石を消耗するから一般商品化は難しいので完全に趣味の開発ですけど。」


「へえ、確かにこれは凄いね。

 今まで見つからなかった隠し通路が見つけられるなんてわくわくするよ。」


 ワインスト嬢は凄いね、と頭を撫でられる。


 こいつはなで癖でもあるのだろうか。


 正直やめて欲しい。

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