12

 何も言わないキャロルに笑顔のままルシウスは続ける。


「あれ?

 昨日手紙を出しておいたんだけど。」


 机に積まれている手紙の束を思い出す。


 混じっていたのだろう。


 全く気づかなかった。


「それにしてもワインスト嬢…どこかにお出かけかい?」


「はぁ、今日から休暇なんで。」


 混乱しつつも一応返すとルシウスは困ったように笑う。


「参ったなあ。

 今日は他の候補者が決まったから全員で顔合わせなんだよ?」


「えっ聞いてな」


「先週から私ちゃんと言ってたよね?」


 そう言われてみれば言っていたような気もする。


 休暇予定の日までに納品したくて開発に夢中で聞き流していたが。




「…私以外で顔合わせしといてもらえませんか?」


 キャロルは首にかけた財布を握りしめる。


 ようやくもぎ取った休暇だ。


 今日を逃せばいつ実行出来るか分からないのだ。


「…大事な用事なの?」


 ルシウスは少し屈んでキャロルと目線を合わせる。


 キャロルはこくりと頷いて財布から1枚の紙を取り出した。


「…魔道列車のチケット?」


「はい。

 私も開発に携わっていて開通の祝いに招待されてまして。

 ついでに西の森に行く予定です。」


 今開発している魔道具に丁度良い魔石が無く自力で取りに行く事にしたのだ。


 自分が関わった魔道列車の様子も体験しておきたい。


 キャロルがそう言うとふむ…とルシウスが悩む様に顎に手を当てた。


 やっぱりダメだろうか?


 ダメならとりあえず気絶させて無理矢理行くしかない。


「この列車何時に出るんだい?」


「えっと12時26分です。」


 早めに出発して王都の食堂で朝ご飯でもと思っていたのだ。


 ルシウスは諦めたように笑うとキャロルの頭をポンポンと叩いた。


「…分かったよ。

 他の令嬢達には手紙と詫びを送って予定を変更しておくから。」


「へっ。

 ありがとうございます?」


 すんなり許可され頭にハテナマークを浮かべながらお礼を言う。


 そんなキャロルにルシウスがニッコリ微笑んだ。


「その代わり、私も行くから朝ご飯でも食べて待っててくれる?」


「…は?」


「さすがに西の森に1人でって言うのは認められないからね。

 私も急いで用意するからちょっと待っててね。」


「えっ嫌です。」


「それは却下。」


 ほら朝ご飯食べに行こう?と無駄にキラキラした笑顔を振り撒くルシウスにキャロルは引き摺られて行くのであった。

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