輪
優紗の言う通り、千染さんからは黒い靄のような負のオーラが出ている…ように見えた。
私にもその妬みやら羨ましいとでもいうような視線が刺さってくる。
「おい、吸血鬼…女子たちが怖がんだろ?そんな睨んでるだけじゃなくてお前のこっちに入ってくりゃいいじゃねえか」
と穂村さんは遠くで見てるだけの千染さんの腕を引っ張ってくる。
怖がるだろうと言った穂村さんに対し優紗は小さい声で「別に怖くはありませんけれど…」とつぶやくのを聞いて私は苦笑いをする。
「だれが吸血鬼だ!」
「お前、吸血鬼だろうがよ」
「私はアバターを変えたのだ。今は慧架様を守るための騎士だ!」
「吸血鬼だろうが騎士だろうが…まあ、どっちでもいいけどよ。お前、何かとキャンキャン突っかかってくるだけで輪の中に入っていこうとしないだろ?」
「入らなくても別にいい。私は慧架様といることができればそれでいい」
「慧架はそれが嫌なんだよ」
「貴様に慧架様の何がわかる?」
「俺も慧架とは付き合いが長いとは決して言えないからわかるとは言えねぇけどよ…。仲間になるやつがいつまでも輪に入ってこようとしないのは普通に考えていやだろうが。まあ、完成しつつある輪の中に入るのは勇気がいることだから難しいのかもしれねえけどよ…」
穂村さんがそう言うと千染さんはおとなしくする。
「まるで自分がそういう経験したことあるみたいな言い方だね」
と御神楽さんがいう。
「まあ、実際そうだな」
「意外だなぁ」
「そろそろ…俺も話したほうがいいかもな」
「えっと…それは雪菜さんたちのこと…ですか?」
私がそう言うと穂村さんは「ああ、そうだ」と答える。
「慧架が昔のことを話したんだ。俺も隠さず話したほうがいいだろうなって。いつまでもウジウジとしてちゃあ…悠我と神木にどやされちまう」
自分の頭をガシガシしながら穂村さんは言う。
「悠我って雪菜の双子のお兄さんだっけ?ぼくも雪菜の口から存在は聞いていたけれど…どんな人だったの?」
「顔は雪菜とそっくりだな。だけど、性格は全くの真逆だ」
「どんなふうに?」
と御神楽さんはニヤニヤとしながら穂村さんに聞く。
そんなことにも気づかず、穂村さんは話す。
「悠我は本当に二重人格なんじゃないかって思うほど裏表が激しいやつだったな。俺以外のやつには如何にも性格よさそうにふるまうと俺の目の前に立つと急に態度を変えて傍若無人になるんだ。全く…誰にでも裏表なく優しく接する雪菜とは大違いだよ。顔は同じなのに本当に中身が逆なんだ」
「穂村さん、苦労人ですね…。あっ、すみません!」
穂村さんの思い出すだけでげっそりしている顔を見て私は思わずそう言ってしまった。
「あー…大丈夫だ、気にしてねえよ。まあ、性格には難があるやつだった…だけどそれはあいつなりの心を開いている証拠だったのかもしれない。俺と友達だっていうことには変わりない」
「ふーん…」
雪菜さんののろけ話を聞いていた時はニヤニヤしてたのに、悠我さんの話となると急に自分の髪先をくるくるといじり、つまらなそうな顔をする御神楽さん。
「御神楽さん?どうしたんですか?」
「うん?いや別に」
「叶波、御神楽さんはヤキモチを焼いているのですよ」
「えっ?ヤキモチ?」
「そうです、ヤキモチ。友達の友達のお話を聞かされていますもの仕方ありませんわ」
「な、何言ってるの優紗!ぼくは別にヤキモチなんて…!」
と御神楽さんは否定するが動揺でさきほど優紗の言ったことを肯定しているというのが目に見えてわかる。
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