嵐のような出来事

「はー!楽しかった!付き合ってくれてありがとね、叶波」


 御神楽さんが私に笑顔を向けて言う。


「こちらこそ、誘ってくださってありがとうございました」

「そう言ってくれたならよかった」


 ほっとする御神楽さんは、そのあとに端末の通知を見て「げぇ~っ…」と声を漏らす。

 どうやら優紗と千染さんからの通知がえらいことになってたようだ。

 その内容はこういったものだ。


『どういうことですの?!わたくしを差し置いて叶波と遊ぶなんてずるいですわ!』

『慧架様!なぜそんなちんちくりんと!』

『叶波はちんちくりんではありません!聞いてますか御神楽さん!?無理矢理叶波を誘ったんでしょう!?』

『やっぱり私はあなたの騎士失格ですか?!』

『御神楽さん!?』

『慧架様!?』


 とやたら御神楽さんを責めるメッセージばかりがグループチャットに流れる。


「まあ、こうなるだろうとは思ってたけど…帰ったらまたしつこく聞かれるんだろうな…」


 と御神楽さんは遠い目をする。


「あっ、叶波が気にすることじゃないよ?それにお互い楽しかったでしょ?」

「そう…ですね!楽しかったのには変わりありません」

「へえ、楽しかったんだ。それはよかったね」


 突然、私達に話しかける男性アバターの声。

 私たちは驚き、その声のする方へ振り向く。

 

「だれ?ぼくらに何か用?」


 御神楽さんは私を御神楽さんの背後に来るように促し、見知らぬ男性アバターに対し冷たく言い放つ。


「おぉ怖い怖い…。せっかくの綺麗な顔が台無しだよ?」

「その割には全然怖がってなさそうだけど?」


 御神楽さんはフンっと鼻で笑う。

 そしてなにやら端末の操作をし始めた。


「まあ、そうだね。君の綺麗な顔に見とれてたからね」


 と男性アバターは御神楽さんの気を引こうと髪に触れる。

 が、御神楽さんはその手を振り払う。


「気やすく触らないでくれる?あと、さっきの質問にさっさと答えて」

「ああ、嫌だった?ごめんね」


 そういう割にはにこにこと笑っていて全く反省していなさそうに見えた。

 この飄々とした感じ…どこかで…。

 それにその笑顔に何やら嫌な感じが漂っている。


「えーっと名乗るんだったらまずそちらから答えるのがいいんじゃないかなぁ~?…なんて冗談だよ。でもまあ、僕から名乗るまでもないでしょ?君、なんとなく察してるんじゃないかな?ほら、言ってみなよ…僕の名前を」


 そういう男性アバターの胸ぐらを御神楽さんはぐっとつかんだ。


「皿木…豊羅…‼‼‼」

「えっ!皿木!?」


 御神楽さんは今にも皿木と思わしき人物に殴りかかろうとする。

 がその時。


「御神楽さん、ここで荒事はおよしなさい」


 その凛とした声に御神楽さんは殴ろうとしたこぶしを止め、おろした。

 凛とした声の正体は…優紗だった。


「さあ叶波、こちらへ」

「優紗!?どうしてここに?」

「御神楽さんから連絡がありましたの。『怪しい人物に接触。たぶん皿木一派かも。場所はユグドランド○○広場』と。千染さん、彼をご存知ですか?」


 そこに千染さんも現れる。

 ああ、なるほど。

 さっき、御神楽さんがなにか操作してたのって二人にメッセージを送っていたのか。

 ちょうどグループチャットをしていた二人ならば、すぐにたどり着けると見込んだんだな。


「ええ、確かに見覚えがありますよ。彼が皿木豊羅で間違いありません」

「おやおや生きていたんだね、裏切り者の三佐千染くん」

「どうせ私のことなどなんとも思っていないくせに」

「そうだね、捨て駒が一人裏切ろうがこちらにとっちゃ何にも痛くない。というか僕としては感謝してもらいたいほどさ。三佐千染くん、君は僕のおかげでそこにいる雅遼御来に会えたんだよ?」

「私はやはり貴様のやり方には賛同できん。よって感謝するつもりも毛頭ない」


 と千染さんは皿木の前に立ち、そう言い切った。


「ふぅ…そうかい、そりゃ残念だ。穂村炎真くんも呼ばれちゃ面倒だし、そろそろ帰ろう…」


 私たちのもとを去ろうとする皿木を優紗が止める。


「お待ちなさい。あなたが御神楽さんたちに近寄った理由は何ですの?」

「ただ、会いに来ただけだよ。将来僕の妻になる子にね」


 そう言って皿木はまた御神楽さんに近づく。

 そしてそのまま、御神楽さんの唇にキスをしたのだ。 

 あまりに一瞬の出来事だったので私達は固まってしまった。

 皿木と御神楽さんの唇同士が離れた後、御神楽さんはその場にへたり込む。

 しかし、我に返った御神楽さんはすかさずキッと皿木を睨む。


「じゃあね、バイバイ」


 そう言って皿木は私達の前から去っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る