見学 その2
千染のこと、若干心配だったけど…うん思ってたより大丈夫そうだ。
強いて指摘するとしたら、ぼくにいい所見せようとしてそれが仇となって脇を取られることくらいか。
「千染!ぼくにいいところ見せようとしてるでしょ?集中して!」
「…!」
どうやら無意識だったようだ。
「…申し訳ございません!」
自分で言っちゃうのは恥ずかしいけど、あこがれてた人が自分のことを見てくれてるって状況…緊張しちゃうのかな?
正直ぼくにはそういう経験がないから何とも言えないけど…。
これは一度、千染の緊張をほぐすためにここを離れて叶波のところに行こうかな。
「ぼく、一度叶波の様子を見に行くよ」
ぼくがそう言うと、千染はショックを受けたかのような顔をする。
「わ、私のどこが悪かったんですか!?」
「あー…これはぼくが言ったタイミングが悪かったね。千染を見限って出て行こうとしたわけじゃないよ。ぼくが思った通り、むしろキミはセンスの塊だよ。それにそろそろ時間もいい頃かなって思って叶波の方に行こうとしただけ」
「そう…ですか…。よかった…」
としおらしい顔をしながらも納得する千染。
この可愛げをみんなにもできるようになれば…概ね課題はクリアできそうだと思うんだけどな。
時間はかかるだろうけど、ぼくには優しく?できてるわけだし。
「ぼくは千染がやればできる子だって信じてるから、頑張りなよ。ホロウ、次は叶波のところへ案内してくれないかな?」
ぼくがそう言うと天からホロウの声が聞こえてくる。
『わかったわ』
ホロウの了承の声と共に叶波の修行部屋へと続く扉が現れるのでぼくはその扉を開き、入っていく。
すると、あっというまに叶波の修行部屋についた。
本当にこれ、どんな仕組みなんだろう。
考えすぎると頭が爆発しそうになるから今は叶波のことに集中するか…と思い、ぼくは叶波の修行部屋を見渡す。
「えっ、これどういう状況?」
千染の修行部屋とは違い、叶波の修行部屋はすごくボロボロになっていた。
そこらへんにこの部屋の物だったであろうかけらが散らばっているし、土煙が視界を塞いでいた。
そんな中、叶波の悲鳴というか叫び声が聞こえる。
「うわあああああ~‼‼‼‼」
視界が晴れてきたのでぼくは叶波の様子をようやく見ることができる。
そこにいたのはレプリカの『稲荷・雅』から逃げまくっている叶波の姿があった。
逃げまくっている間、足がもつれたようで叶波は盛大にこけた。
「うぎゃっ!?」
「叶波!?ホロウ、ぼくちょっと乱入するね?!」
『清本叶波の特訓を一時停止、認証』
そんな状況にぼくは思わず叶波を助けに入るため『稲荷・雅』になり、レプリカのぼくを止める。
暴れていたレプリカはぷつんと電源が切れたかのように動かなくなった。
それを見てぼくは一安心する。
「えっ!?御神楽さん!」
「顔から盛大にこけたけど…大丈夫?」
「す、すこし痛いけど…大丈夫です…」
そういう叶波だが、少し擦りむいちゃったのかおでこが赤くなっていた。
「大けがしてなくてよかったよ。でも、可愛い顔に傷をつけちゃって…」
「か、かわいい…?私が…?」
戸惑う顔を見せる叶波。
この子、ぼくにはきれいとか美人って言いまくってくるのに自分が言われるのには慣れてないのかな…?
「叶波は可愛いよ、自信もって。…ところでこの部屋はなんでこんなボロボロに…?」
「えっと…レプリカの攻撃から逃げてたらこうなりました…。ホント自分が不甲斐ないです…」
と明後日の方向を見ながら叶波は言った。
でも部屋のボロボロさの割には叶波の体にはさほど大きな傷などはない。
強いて目立つと言えば先程転んで擦りむいてしまったおでこ程度…。
「普通に逃げてただけ?」
「痛いのは嫌だったので泡の膜を体にまといながらではあるんですけど…。あはは、情けないですね…」
なるほど、傷が思ったよりも少ないのはそういうことか。
「泡の膜で体を守って負傷を最小限に抑える…その発想はいいね」
ぼくがそういうと叶波は「えっ?」と声を漏らす。
「情けないとか…思わないんですか?」
「誰だって痛いのは嫌に決まってるじゃん。…まあ、そういう性癖の人はそうとは限らないけど。なるべく痛くないように工夫をするのはいいことだと思うけどな」
叶波は少々ネガティブというか自分を卑下する癖がある。
自分に自信をつけさせることが今後の課題かな。
それになんだか思い悩んでいるような節が見られる。
「ねえ、叶波。何か悩んでいることでもあるの?」
「えっ!?」
当たっていたようで叶波は目が泳いだ。
「くだらないことだと思うかもしれないんですけど…」
「大丈夫だよ。ぼくにできることならなんでも聞いて」
「ありがとうございます」
叶波の悩みの種はこうだ。
自分のアバターのモチーフがまだ決まっていないということ。
この前もなんだか同じことを言っていたっけな。
でも前の時と比べてかなり深刻に悩んでいるようだ。
「なんかこう…自分のアバターのモチーフが決まっていないって…まるで自分がないように思えてきて…」
「そんなこと言ったら、ぼくのアバターである『稲荷・雅』はもとは雪菜のだからね。前のアバターがどんなのだったか思い出せないし。そう言った意味ではぼくも自分がないのかも。おそろいだね」
「おそ…ろい…。お揃いかぁ…」
「あれ?いやだった?」
「いいえ!嫌じゃないですよ?!むしろそう言っていただいて嬉しいというか…」
「そう、よかった」
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