魔騎士・シュヴァルツ
「へえ、こりゃ本格的なレプリカだこと…」
目の前の『稲荷・雅』のレプリカを見てぼくは感嘆する。
まあ、よく出来てはいるけど…本気出したぼくより弱いかな。
そういう風にレベリングされてるんだっけ?
こんなことみんなの前で言ったらやれ嫌味だの、やれ自慢だのと言われそうだから絶対言わない。
こういうとこ、少しは大人になれたんじゃないかと自分で思った。
しかし…いつの間にぼくのアバターのデータなんて読み取ったんだろう?
余計な事とかも読み込まれてたらいやだなぁ…。
例えば、プライベートなこととか。
まあ、今はそのプライベートを握っているのは優紗なんだけど。
優紗に関しては一応養ってもらっている身だから文句は言わない。
っていうか言えないよ。
ぼくのわがままを許してくれてるんだから、それだけでも十分優しくしてくれてる。
本当にいい子だよ。
「ほぁ~…。慧架様が二人…」
一方肝心の千染はというと、レプリカの『稲荷・雅』とぼくを見て惚けていた。
…彼、ぼくのことになるとポンコツになりすぎてないかな。
なんかますます心配になってきた…。
さっきからずっと変な感じもするし…。
「…余計な事気にしてても仕方ないか。千染、キミの戦い方はどんなのか見せてくれる?」
ぼくが声をかけると千染はようやく我に返る。
「は、はい!」
千染はアバターを自身にまとう。
「あれ?今はもう吸血鬼じゃないんだ」
前は燕尾服とマントでいかにも『吸血鬼』な姿だったけど今は違う。
黒を基調にしているのは変わらないが、ひらひらとした感じからカッチリとした鎧のように変わっていたのだ。
図書館のサーバーの中で戦った時のアバターってそう言えば、皿木に抹消されてしまったんだったよね…。
「ああ、はい…。どうも私には吸血鬼は似つかわしくないと思ってまして…」
「そう?キミのキャラには合ってたと思うけど?それにその言い方、まるで『ブルート』はキミのアバターじゃないみたいな言い方だね」
「その通りです。実は皿木に会うまで私は『ユグドラシルONLINE』をプレイしていなかったのです。いわゆるアバター自体を作らない『見る専』のようなものでしたね」
『ブルート』は皿木が千染のために作った捨て駒用のアバターだったと…。
なるほど、彼はあの図書館の時ほぼ初めてに等しい状態で炎真や優紗と互角に近い状態で戦っていたということになるのか…。
「初心者だった割にはあの時の戦い方、なかなかいいセンスしてたんじゃない?真剣になればもっと伸びるんじゃないかな?」
ぼくがそう言うと千染は顔を真っ赤にさせる。
「そ、そんな滅相もない!あれは皿木の渡した『ブルート』がそういうレベル設定をしていただけなんです!それでその…本当にぶしつけなんですが…」
と千染は口をもごもごさせる…が意を決したのか真剣なまなざしをぼくに向ける。
「今度はこのアバターで…純粋に私の強さを見てほしいのです!あなたを守れるような立派な騎士になるために。なので新しい私のアバター名は『
また随分と頓珍漢なことを言っているけど…『ぼくを守れるように』っていうのはなかなか面白い。
そういうこと、面と向かって言われたのは初めて…だと思う。
「それじゃあ、お手並み拝見と行こうか。ぼくを守れるように強くなるんだったらあんな偽物、倒せるでしょ?」
ぼくがそう言うと、千染は跪いてこういった。
「必ずや。あなたのために、私は強くなります」
その姿は本当に、ぼくを…主人を守るのに命をささげる騎士のようだった。
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