御神楽
「…ってことは慧架の実家に悠我がいるってことなのか?」
「もしかしたら…だけどね。これは本当に憶測でしかない。ぼくの勘で安易に行くわけにはいかないでしょ?それにあんなところ、みんなには行ってほしくない」
御神楽さんがそう言うと、千染さんは複雑そうな顔をする。
それに気づいてか御神楽さんは千染さんに「あっ…ごめん」と謝罪の言葉を言う。
「あ、謝る必要など…!」
千染さんは慌てて御神楽さんに言葉を返した。
「仮にも長く雅遼家に仕えてきた三佐家の人間に『あんな家』っていうのは…君たちの存在を否定するようなものだ」
「私はあなたが苦しんでいるのも知っていたのに、のうのうと『普通』と言える生活を送っていました」
千染さんの言う『普通』の生活…。
それはたぶん、学校に勉強を学んだり、家族と団欒したり…ということだろうか。
御神楽さんの過去をほんの少ししか覗いていない私が言うのはなんだけれども、確かに幼い頃の御神楽さんにはそう言った過去はなかった。
でもそんな御神楽さんを救ってくれたのは三佐恵果さんだ。
「それはキミが苦しむことじゃないよ。ぼくが、そういう運命のもとに生まれた…うまれてしまったんだからそれは仕方ないことなんだ」
「でも…そうだとしても…!」
何かを言おうとした千染さんだったが、御神楽さんがその言葉を遮った。
「もしかしてぼくのこと、かわいそうな子だと思ってる?それは勘違いしてるよ。ぼくだって楽しかったり、幸せだったりした時があるんだ。それが来るのがほかの人たちよりちょっと遅かっただけ」
何か言いたげだった千染さんは御神楽さんの言うことに言い返すことはなかった。
「それでもぼくは堂々と言う!あの家はくそだ!というか父さんがクズ過ぎるんだ!あんのくそオヤジ、次会ったらぶん殴る!信者が見てる前で思いっきりね‼‼‼」
先程のシリアスな空気とは打って変わって突然の御神楽さんの暴言のオンパレードに私は思わずズッコケてしまった。
そんな御神楽さんを見て穂村さんはゲラゲラと笑い、「いいぞ、その意気だ!」とはやし立てる。
「あの人、思ってたより面白い人なんだね」
マメシバくんが御神楽さんを見てそう言った。
「そうだね。私も最初は機械的なイメージがあったけど、人間味あふれる人だよ、御神楽さんは」
「ところで御神楽さんは女の人だの?男の人なの?僕、今まで年上の人のことお兄さんとかお姉さん呼びしてたからどっちで呼んだらいいのか混乱しちゃって…」
「ちゃらんぽらんなところがありますが…黙っていれば神秘的で綺麗なお顔をしていらっしゃいますしね、御神楽さん」
優紗が毒を効かせながら御神楽さんの容姿のことを言う。
「御神楽さん、実際のところどちらなんですの?」
「え?なにが?」
「あなたの性別のことですわ。今まではぐらかしていましたけど、何か理由がおありですの?」
「いや?そんなにないよ。ただみんなの反応見て面白がってただけ。一応戸籍上は『女性』にはなっているんだけどね」
その場にいるみんなはそう言われてみると、なるほどと納得する。
ということは御神楽さんは所謂『ぼくっ子』という類になるのかな。
でも一応というのが妙に引っかかった。
「女性…そうなのですね。しかしその言い方妙に引っかかりますわね」
「ちょっと医学的な話をするね。人間ってさ体のベースって女性なんだって」
「へぇ…そうなんだな…」
と穂村さんは御神楽さんの話を聞いてそういった。
「んでなんでそんな医学的な話をしたんだ?」
「ぼくの体の場合、それが中途半端なんだよ。ぼくには性別というものが存在しない。『無性別』、それがぼくだ」
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