新たな目的2

 つらつらとそう言った御神楽さん。

 その様子はなんだか危うげだった。

 ホロウさん側は話し終えたのか、こちらへ向かってくる。

 穂村さんは何とも言えない顔をしていた。


「慧架」


 穂村さんは御神楽さんに声をかける。


「なに?炎真」


 感情を押し殺すように御神楽さんは返事した。


「お前、『雅遼家』に一人で乗り込もうとか考えるなよ?」

「…」


 御神楽さんは穂村さんの言葉に答えなかった。

 私もあの様子からもしかしてと考えていたけれど、今御神楽さんを『雅遼家』…御神楽さんの実家に帰すのはいけない。

 帰してしまったら御神楽さんは御神楽さんではなくなってしまうような、そんな気がしたからだ。


「でもぼくがあそこに戻れば千染も…『三佐家』も喜ぶでしょ?」


 無理やりにでも『雅遼家』に殴り込みに行こうとする御神楽さん。

 千染さんの家の事情も絡ませてきたあたり、その本気度がうかがえる。

 千染さん本人も、複雑な気持ちになっていることだろう。


「そうですね…とこの前の私なら答えていたでしょう」

「何その言い方?ぼくのいうことに賛同してくれないの?」

「おい、慧架。お前らしくねえぞ?吸血鬼に自分の意見を無理やり聞かせようなんて」


 穂村さんにそれを言われて御神楽さんはハッとわれに返る。


「そう…だね。ゴメン、千染…。ぼく…気が動転しすぎていたみたいだ。そうだよ、炎真だって大切な人たちがひどい目に遭っている状況だっていうのに、ぼくだけ被害者面なんておかしいよね」


 あははと乾いた笑いをする御神楽さん。

 流れを切るようにホロウさんが話す。


「これから私たちが行動する目的は『神木刹那と羽賀悠我の捜索と救出』、そして最終目的は変わらず『皿木の野望を打ち砕く』よ。前者の二人の居場所はせせらぎ高校の探索をクリアすればわかるはずよ。それに神木刹那と羽賀悠我はユグドラシルONLINEでもかなり上位に上る存在、戦力にもなるわ。『皿木の野望を打ち砕く』ことにも積極的に協力してくれるでしょう。聞いたことないかしら?アバター名『アルテミス』と『葛葉クズノハ』」


 私はその名前のアバターについては若干聞いたことがあるようなという程度だ。


「私はうる覚えですが…名前は聞いたことありますね」


 私はそう答えた。


「わたくしたちのひとつ前の世代のランキングトップ3のアバターたちですわ。正しく言えば『ユグドラシルONLINE β版』で、ですが…」

「ちょうど入れ替わりって形で俺らが出てきたから、最近始めたやつはたぶん分かんないだろうな」


 穂村さんに当時の最強メンバーを教えてもらった。

 まず妖精最強が神木刹那さんの『アルテミス』、妖怪最強が羽賀悠我さんの『葛葉』、悪魔最強だったのが『火翔龍』というアバターだったそうだ。

 『火翔龍』さんは穂村さんの憧れのアバターだったが、そのアバターはほかにやりたいことができたという理由で今ユグドラシルを引退してしまったそうだ。

そう思うと『ユグドラシルONLINE』ってものすごい勢いでステータスとして浸透していったなと私は思った。


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