脳内会議
『稲荷・雅』はとても強い。
この言い方はざっくりしすぎだし、誰しも分かり切っていることだ。
言い方を変えなくちゃ。
例えば、穂村さんこと『焔竜』はゴリゴリのパワー系の戦術をする。
優紗こと『エルフ・ロゼッタ』は回復系やトラップで相手を攻めるテクニカルな戦い方をする。
しかし、『稲荷・雅』は両方しっかりとしている。
パワーもあるし、テクニカルなこともできる非常にバランスの整った戦術なのだ。
こちらが攻撃を仕掛けようとするならば攻撃力を下げてくる技や防御をしてくる。
逆に私が攻撃を防ごうとすると、私の防御力以上のパワーで攻撃されてしまう。
完全に隙が無いのだ。
…まあただ単に私のレベルが足りないだけなんだけど。
誰に相談しても練習あるのみとしか言われなさそうだ。
場数を稼げばなにか見えてくるかもしれない、明日も頑張るしかないよねと思いながら私は寝ることにした。
『叶波ちゃん』
夢の中だけど、私は誰かに呼ばれる。
このフワフワとした感覚は…もしかして!?
私は声のする方へ向かう。
するとは儚げな印象を受ける少女が一人…雪菜さんだ。
「雪菜さん!」
「こんばんわ、叶波ちゃん。また会えたわね」
「お久しぶりです!…でもまたなんで?」
「なんでかしらね…?そこは私にもわからないの。ほかの皆はどこか隙が無くて…叶波ちゃんの夢の中って入りやすいのよね」
雪菜さんのその言葉が妙に胸に刺さった。
私って隙だらけなんだね…やっぱり…。
私がしょんぼりし始めたのを見て雪菜さんはあわてる。
「あっ!いやね、嫌味を言ったわけじゃないの!気分を悪くしたならごめんなさい…」
「大丈夫です…自覚はあるので…」
「あわわわ…」
雪菜さんが困っている。
私も気持ちを切り替えよう!
「えっと…。また夢の中に現れたってことはなにか伝えたいことがあるから…ですよね?」
私がそう言うと雪菜さんも気持ちを切り替える。
「ええ、そうなの。まずは一つ目、ミクルちゃんを…慧架ちゃんを助けてくれてありがとう」
雪菜さんは私ににこりと微笑みかける。
「私、御神楽さんに聞きました。雪菜さんも御神楽さんの心の中がぐちゃぐちゃになった時、一正気に戻そうとしてくれてたってことを。あなたがいなかったら御神楽さんは目が覚めなかったと思います。ありがとうございます!」
私はぺこりと頭を下げて雪菜さんにお礼を言う。
雪菜さんは嬉しそうに「どういたしまして」と言った。
「二つ目に伝えたいことはね、私が慧架ちゃんに『稲荷・雅』を預けた理由よ」
最初にみんなに出会った時穂村さんは「『稲荷・雅』は雪菜のアバターのはずだ!」って言ってたな。
あの時は穂村さんと御神楽さん、言葉を交わそうとするものならすぐ険悪なムードになって大変だったっけ…。
そう思えば、今の状況ってだいぶ変わったな。
御神楽さんもいつの間にか自分のアバターが『稲荷・雅』になっていたって言ってたし。
ようやく謎が解ける。
「叶波ちゃんの言う通り、『稲荷・雅』はもともと私のアバターだったの」
と雪菜さんの口から改めてきく。
「『稲荷・雅』を慧架ちゃんに託した理由は慧架ちゃんの心を保護するためよ」
「心を…保護…?」
私が雪菜さんの言葉を繰り返すと、雪菜さんはうなずいた。
「私はね、ミクルちゃんの保護者である三佐恵果さんが亡くなった後に交通事故に遭ったの。だから、慧架ちゃんにとっては不幸の上に不幸が重なってしまった」
雪菜さんのその言い方はまるで自分が死ぬのを予感していたかのように聞こえた。
「叶波ちゃんは今の私の言い方、まるで私の死を予知してたようだなって思ってたでしょ?」
思っていることを言い当てられたので私は「はい」ということしかできなかった。
「私ね、豊羅さんの知られたくないことを知ってしまったの。私が死んだ交通事故はあの人が仕組んだこと。しかも炎真君の前で私を殺したの」
「豊羅さんってもしかして…皿木豊羅!?」
と私が言うと雪菜さんはうなずく。
「皿木豊羅は雪菜さんの婚約者だったんですよね…?秘密を知られたからってなにも殺さなくたって…!」
「豊羅さんはそういう人なの。目的のためなら手段を択ばない、計画の邪魔になりそうな人物は消す」
「それじゃあ…私たちの使命って一体何だったんですか?皿木本人が雪菜さんを殺したんじゃあなたを蘇らせる計画は意味ないんじゃ…?」
「豊羅さんの本当の目的はね、『カミキエンタープライズ』を乗っ取ること。それを終えた後は国ごと支配するつもりなの。今実質この国は『カミキ』のおかげで成り立っていると言っても過言ではないからね。私が知ったからには現『カミキ』の社長の娘である神木刹那ちゃんに…最終的には神木宗近おじ様にも時期に伝わってしまう。そうなる前に私を殺したの」
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