反省会

  いつもの部屋につながっている扉を用意してくれたホロウさん。

 みんないるのかどうかわからないけど、私はそこに行ってみることにした。


「叶波もいらっしゃったのですね」


 優紗が私を見て、手を振ってくれた。

 優紗のほかにも穂村さんや千染さんもいた。

 みんなやっぱりというべきか、げっそりしていた。


「みなさん…お疲れ様です…」

「ああ、お疲れ」

「お疲れ様ですわ」

「おやおや、この程度のことで音を上げるなんて…情けないですね」


 と千染さんは相変わらず嫌味を言う。


「平然を装ってるつもりだろうがお前が一番げっそりしてんのわかってんのか?」


 と、穂村さんが千染さんにツッコミを。


「うるさいですね…。私はとても心苦しかったんですよ?レプリカとはいえ慧架様に攻撃するなんて…」

「図書館のサーバーの中ではめちゃくちゃ攻撃してたろうが」

「あの時は、なんとしてでも慧架様を手に入れたかったので必死だったんですよ。今は完全にあの方の僕。主に攻撃だなんて恐れ多いこと…」


 と震えながら千染さんは言う。


「なかなかにハードなプログラムですが…ステータスはかなり上がっています。さすが特別強化プログラム、と言ったところでしょうか」


 と優紗が言うので私は自分のアバターのステータスを確認した。

 確かに、前より格段に上がっていた。

 私は逃げてばっかりでいたのに…いいのかな、このままで。

 そんなモヤモヤした気持ちが心にたまっていくのを感じた。


「もっと強化したいとおもうことでしょうけど、今日はこれ以上やらせるつもりはないわよ?」


 とホロウさんが現れた。


「こんなにもやる気があるなんて思わなかった…っていうのもあるけど、今日帰って来たばっかりなのに疲れているでしょ?休めるときに休んでおかないと、肝心な時にガタが来ちゃうわよ。だから今日は早めに切り上げたの、不満そうな顔してもそこは譲らないわ」

「だってさ。ホロウもそう言ってることだし、今日は切り上げたら?」


 とホロウさんの後ろから御神楽さんが現れ、そう言った。

 後ろに御神楽さんがいたことに気付かなかったのか、ホロウさんは少し驚いた顔をした。


「意外だ、ホロウもそんな顔するんだね」

「あなたいつの間に…」

「ついさっき。みんなが頑張っているときにぼく一人だけなにもしないのって退屈だなぁって思って」

「御神楽さん、あなたが一番休んでいなきゃいけない方でしょう?」


 と優紗が御神楽さんに言う。


「なんか…寂しくなっちゃって…。来ちゃった☆」


 と御神楽さんがいうと千染さんが口をあんぐりと開ける。


「あれ、千染?どうしたの?」


 御神楽さんが千染さんの様子を窺う。


「…がう」

「えっ?なに、ぼそぼそ言ってるの?」

「こんなの私が思い描いていた雅楽様像じゃない!うわああ~!」


 千染さんは一人、悶えたあとジタバタと駄々をこね始める。

 その様子に御神楽さんはドン引きしていた。

 いや、私達もひいてはいるけども…。

 あれかな?

 いわゆる解釈違いっていうやつだ。

 千染さんの中で思っていた御神楽さんと今目の前にいる御神楽さんの何かしらの行動が千染さんの中で解釈違いを起こしたんだと思う。


「えっと…?とりあえずゴメン」

「うわああ~!雅楽様は私なんて底辺のものに謝ったりしない~‼‼」

「えー…。じゃあ何すりゃいいのさ…」


 千染さん、実は面倒くさいオタク体質だったのかもしれない。


「出会って間もない人にこんなこと言うのあれだけど…。なんか千染、おかしくなってない?いや、彼もともとおかしいけどさ」


 と御神楽さんは発狂している千染さんをよそに私たちになにがあったのか問いかけてくる。


「強化プログラムの内容が『稲荷・雅』のレプリカと戦うことだったんですよ」


 私は御神楽さんにそう言った。


「へぇ…ぼくのレプリカねぇ…。いつのまにそんなのとったの?」


 と御神楽さんはホロウさんに聞いた。


「黙秘権を使わせてもらうわ」


 ホロウさんはバッサリとそう言った。

 問いただそうとした御神楽さんだったが、途中で面倒になったのか「あっそ…」とあきらめた。


「それで、レプリカとはいえ『稲荷・雅』…つまりは御神楽さんに攻撃なんてできない!ってことで精神けっこうすり減らしちゃったみたいです」

「…で、結果があれと。なるほどね…ってうん?図書館のサーバーの中でぼくに思いっきり攻撃してなかったっけ?」

「俺とまるっきし同じこと言ってるな」

「げぇ~、マジで?」

「なんで嫌そうな顔をした?あー…なんだっけか、あの時はお前を手に入れるために必死だったんだってよ。今はその必要もなくなったのか、タガが外れたっぽいな」

「ふーん…」


 と言った後、御神楽さんは千染さんの方に近づいていく。


「はぁ…千染?」

「そうです、私に向けられる目はその哀れそうに見つめる目であるべきなんだぁ…」


 うじうじしている千染さんを御神楽さんはグッと抱きしめた。

 突然のことにここにいる一同はぽかんとする。


「とりあえずいったん落ち着こうか、ね?」


 というと千染さんはようやく御神楽さんに抱きしめられているのに気づいたようで、顔をボンッと赤くさせる。


「落ち着いた?」

「は、はいぃ…」

「ならよし」

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