Good Morning

「御神楽さん、どうか…」

「慧架!」

「御神楽さん!目を覚まして!」


 私たちは、目が覚めない御神楽さんに対し必死に呼びかけた。


「48…49…50!いい感じだわ…これで御神楽慧架に何があったかの解析が可能になった…けど、もうその必要はなさそうね」


 と、ホロウさんは解析をするのを止める。


「えっ?どうして止めちゃうんですか!?」


 ここまで頑張ったのに…?


「それは、自ずとわかるわ」


 ホロウさんは詳しくは言わない。

 だけどその理由がわかったのは数秒後。


「うぅ…っ」


 御神楽さんが呻く。

 頑なに開くことなかった瞼がピクピクと動く。

 そして、ゆっくりと瞼を開いた。

 御神楽さんの目が私達に向いた。

 その目が私達が周りにいることを確認すると一言、口を開きこういった。


「…おはよう、みんな」


 ふわりと優しく、御神楽さんは微笑んだ。


「へ?」 

「は?」

「あら…」


 私たちはぽかんとしてしまった。

 そんな私たちをみて御神楽さんはクスリと笑う。


「おはよう、御神楽慧架。気分はどう?」


 ホロウさんは淡々と御神楽さんにそう聞いた。


「うーん…、一概には気分最高とは言えないかな?まあ、妙にスッキリはした」


 といい、御神楽さんはベッドから起き上がろうとする。

 

「あれ?体にうまく力が入らない…」

「まあ、あんだけ暴れりゃ動けなくなるわな…」


 と御神楽さんに最初に声をかけたのは穂村さんだ。


「本当に…。いきなり泣き始めたと思えば、倒れ込んで眠ってしまったり…」


 次に口を開いたのは優紗だ。

 優紗は私の方を見て、続きを言ってくださいと目配せをする。


「目が覚めたと思ったら、暴走し始めちゃったのでほんっと驚きました!…でも、無事でなりよりです」

「ああ、それは…ほんとゴメン。迷惑かけたね…ところで端っこに隠れてるのは誰?」


 と御神楽さんは隠れてるブルートを指さす。

 ブルートは御神楽さんに見つかって明らかに「やばい!」とでも言いたそうな顔をしていた。


「彼はブルートの中の人です…」


 と私が言うと御神楽さんはとても驚いた顔をした。


「えっ、うそでしょ…?仮面の下はもうちょいおっさんだと思ってた…。というか、なんか最初にぼくと会った時とだいぶ印象違くない?そんな大人しくなかったでしょ?」

「あれだ。いつもお前を遠くから見ていたもんだから、急に近くにいると緊張して話しかけられなくなったんじゃねえの?」

「いつも遠くから見てた…?えっ、なにそれストーカーかなんか?」


 と御神楽さんはそういう。


「違います!ストーカーなんかじゃありませんよ!!!」


 と端っこでもじもじしてたブルートはようやく喋りだした。


「うわっ、ようやく喋った。!まあさっきのは冗談だよ。キミ、ぼくの家に仕えてた人でしょ?名前はなんていうの?」


 と、御神楽さんはブルートの名前を聞く。

 御神楽さんにそう言われて、ブルートは膝をついて自身の名前を言った。


「私の名は三佐千染さんさちそめです」


 その『三佐』という苗字を聞いて御神楽さんと私は「えっ?」と思わず声を出す。

 その苗字は御神楽さんの大切な人、恵果さんと同じ苗字だったからだ。


「その苗字…恵果となにか関係があるの?」


 と御神楽さんはブルート…千染さんにそう言った。


「三佐恵果は私の伯母に当たる人物です。彼女が御新様を殴った挙句、御来様を連れ出したせいで私たちの一族は雅遼家から破門されてしまいましたよ。…全く、私の人生めちゃくちゃです」


 と千染さんがいうと、御神楽さんは「あはは…」と空笑いをした。

 私たちはただその壮絶な過去に何とも言えない気持ちになった。


「ああ、安心してください。決して御来様を責めているわけではございません。私はあの伯母を責めているのです」

「いや…うん、恵果のことを責められるとぼくもなんか心ぐるしいというか…。ぼくの家出のせいでそんな大ごとになるとは思ってなかったから。恵果は知っててもぼくに教えようとはしなかっただろうね。うーん…なにかぼくにできることあればいいんだけど…」


 と御神楽さんは考え始める。


「いえいえそんな!滅相もない!罰が当たってしまう!」

「そんな大げさな…。ぼくは神様でも何でもない、ただの人間だよ?詫びくらいさせてほしい。雅楽に戻れっていうのはさすがに無理だけどさ…。ぼくはもう、あの家に帰るつもりはないし…」

「…そうですか。それは残念」


 千染さんはちょっと残念そうだった。

 雅楽様になることに戻らせるつもり満々だったんだ…。


「…では雅楽様ではなく、あなた自身に仕えさせてください」

「それってお詫びにも何にもなってなくない?」

「私はいつか、あなたに使えることを目標にしていました。私はいついかなる時であろうとあなたにすべてをささげるつもりです!」


 と千染さんは御神楽さんに言い放った。


「よくこんなセリフなんの恥ずかしげもなく言えるよな…」


 と穂村さんは小さく言う。


「あら、穂村さん?あなたも雪菜さんに対してならあまり変わりませんわよ?」

「えっ!?マジかよ…。俺のはあんなに歪んでねえよ…」

「確かに、穂村さんの雪菜さんに対する想いはストレートだと私は思うな…」

「うわぁ、マジかよ。ある意味一種の同族かぁ…。恥ずかしくなってきた…」

「そこ!また私に対して小言を言うな‼‼‼」


 と千染さんは顔を真っ赤にして私たちに言う。


「まあ、みんな。あんまりからかわないであげてよ。彼も真剣なんだからさ…プフッ!」


 と御神楽さんは肩を震わせながら千染さんをフォローする。

 いやもう、御神楽さんが我慢しきれず吹き出してしまったのでなんのフォローにもなっていないんだよなぁ…。

 この瞬間から千染さんは私達の中でいじられキャラという立ち位置になった。



 


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