持つべきものはなんとやら

 俺は自分の親友である真田了平さなだりょうへいに電話をかける。

 年齢は俺と同い年だが、俺は訳ありで留年しているため、真田は高校3年生となる。


『もしもし?炎真どうした、こんな夜遅くに』


 あの空間にいたせいであまり時間の感覚はわからなかったが、思っていた以上に時間は経っていなかったらしい。

 実際に今日が何日か聞いてみたらなんと日が変わる前だったからだ。

 どういう原理なのだろうか…?

 まあ、考えるだけで俺の頭がパンクしそうだからあまり深く考えないでおこう。

 それよりもあの曲について真田に聞かないと。


「もしもし?悪いな、夜遅くに電話かけちまってよ…。ちょっと頼みたいことがあってな」

『頼みたいこと…?あっ!もしかして終業式のあとに言ってた合コンの話か!?』

「はぁ!?ちっげぇよ!それに俺、合コンに興味ねえって前も話しただろ!」


 そういえば、そんな話もしていたな。

 だけど俺はそういうの興味ない。

 俺が焔竜だから、そういう理由で誘われることが多い。

 だけど俺は、女子にモテるためにTOP3になる努力をしたわけじゃない。

 だから俺は誘われても基本断っている。

 でも一回だけ真田が見事な土下座を俺にしてきたときはさすがにかわいそうになってしまったので仕方なく行ったことはある。

 

 『ちぇっ…ようやく前向きに参加してくれると思ったのによぉ…。いっつも言われんだぜ?焔竜と一緒の学校なら知り合いでしょ?ってさ。お前、自分が思っている以上に人気者なの分かってる?』


 真田にそういわれるとなんだか背中がムズムズしてくるのを感じる。

 長年の付き合いである親友に言われるからこそのむずがゆさといったところか。

 こんなチャランポランなやつでもふさぎ込んでいた中学時代では大きな支えになってくれたからな。

 そこは本当に感謝してる。

 もちろんそれはちゃんと本人に伝えた。


「お前にそういわれるとむずがゆいな。つーかお前受験生だろ!大丈夫なんかよ、そんなことやっててよ…」

『わー!それ今聞きたくない~!』

「…じゃないじゃない!今そんな世間話してる場合じゃなかった!」

『あっ、そういやなんか用事あるって言ってたな』

「あのさ。お前の親御さん、昔バンドやってただろ?」

『ああ、そうだな。やってた、お前意外と俺の母ちゃんの歌気に入ってくれてたよな』

「『Keep Yourself』って曲のジャケット写真のあの花の名前、知ってるか?」

『えーっとなんだっけな…白い花のあのCDだろ?確か、月下美人って言ってたな』


 真田のその答えを聞き俺は、清本たちに『ビンゴ!』というサインを送る。

 それに気づいてか清本は小声で「ありがとうございます!」とお辞儀をしながら言った。


「俺の友達でさ、真田のおふくろさんのバンドのファンだったやつがいてよ」

『へー!そんなマニアックな人いるんだな~』

「いや、お前のおふくろさんのバンドの曲…俺は結構好きだぞ?」

『お、おお…ありがとよ。母ちゃんに伝えておくわ』

「ああ、そうしてくれ。んで、もう一つ頼みたいことがあるんだが、その曲のデータを送ってほしいんだ」

『おお、全然いいぜ?』

「ホントか!?…でもいいのか?」

『何がだよ?』

「何に使うのか、理由は聞かなくて大丈夫なのか?」

『お前、見た目はヤンチャしてそうなやつだけどよ…根は悪い奴じゃないってことちゃんと知ってるからな。悪い風には使わねえだろ。それに、この曲もずっと埃かぶってるだけじゃもったいない。実はな、俺もこの曲好きだ。同士がいるのは嬉しい』

「…本当にありがとな、真田」

『いいってことよ!じゃあ、さっそく送るわ~』


 ブツッと通話が切れた後、 端末がブルルっと震える。

 画面を見てみると、音源データが送信されていた。

 俺はそれをダウンロードし、清本にこの曲で合ってるか確認を取る。

 最初に流れてきたイントロの楽器の音はピアノ…キーボードの音。

 優しい音色が流れる。


「あら、優しい音色ですわね…」


 と桜宮が目を瞑って聞く。

 そして、歌が始まった。


「…そうです!この曲です!穂村さん、本当にありがとうございます!」


 と清本は今にも泣きそうな顔で俺に礼をいう。


「はぁ…よかった!一安心だ…。でも礼なら、俺のダチに言ってくれ」

「はい、そうさせてもらいます。でも、穂村さんにもお礼は言わせてください。穂村さんが思い出してくれなかったら、この曲のありかにたどり着けなかったので…」

「お礼は素直に受け止めなさい、穂村炎真。それじゃあさっそく、御神楽慧架に聞かせてみましょう」

 

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