空っぽ小箱

「早速開始!…と言いたいところだけど、いろいろあって疲れていることでしょう」

「俺はやれるぞ」


 と穂村さんはホロウさんに言う。


「英気を養うことも、立派な修行…ってところね。私もこのデータの小箱を解析したいところだし。穂村炎真、それを渡してくれる?」

「あ、ああ…」


 と穂村さんはホロウさんに小箱を渡した。

 だけど、渡した瞬間ホロウさんは「ん?」と不可解そうな顔をした。


「ホロウさん、どうしたの?」


 私が聞くと、ホロウさんはこう答えた。


「この小箱、データが空っぽなのよ…」

「え~っ!?」

「てめぇ…もしかして何かしたのか?」


 と穂村さんはブルートに詰め寄りそう言った。

 するとブルートはため息をつきながら…。


「さてね。何もしていませんよ。その小箱の役目はもう終わった、そういうことでしょう?」

「それについては仕方ないわね…わかったわ。あなた、本当に皿木のことについては何も知らないの?」

「そうですね。知りませんし、知ろうとも思いませんでしたよ。私は雅楽様もとい、雅遼御来様にお会いできればそれで十分でしたので」

「たまたま利害が一致していたから協力したまでっていうところね…。そうか、そういうところから組織の人間を補充したりしてくるのね…厄介だわ…」

「そういえば話が戻ってしまうのですが…、先程叶波は仰っていましたよね?データの残滓が夢の中に現れると…」


 と優紗が私に聞いてきたので私はそうだと答える。


「今わたくしたちにそれが現れてこないのであれば、残滓に干渉した可能性が一番高いのは御神楽さんだとわたくしは思うのです。小箱が空だった理由はそれが原因だと思いますわ」


 という優紗。

 それに対して私はなるほどと思った。

 泣き崩れてそのあと、倒れ込むように寝落ちしてしまった。

 そのあと目覚めたときから何か様子がおかしくなったからだ。

 それが干渉した結果暴走状態になってしまったのならば、納得がいく。

 私はそのことを優紗をフォローするような形でホロウさんに伝えた。


「御神楽慧架を激しく刺激させるような何かがその夢の中で起きた…と」

「その夢の内容を調べる方法っていうのはないのか?」

「あるわよ」

「じゃあそれを使えばいいんじゃねえの?」 

「あるにはあるんだけど、今の御神楽慧架の状態じゃ調べることは無理なのよ。精神が安定していないから」


 とホロウさんは御神楽さんのおでこに手を当てながら言った。

 そして顔をしかめる。


「この子の頭の中、酷くぐちゃぐちゃになっているわ。これじゃあ調べようにもいつになるかわからない…。それどころか目覚めるかもわからない」

「そんな!?冗談はやめてくださいよ!」


 と真っ先に声を荒げたのはブルートだった。


「冗談でこんなこと言えるわけないでしょう。何か…この子の心の支えになったものでも分かれば少しは精神を安定させることができるのだけれど…」


 というホロウさんの言葉に私はピンっと思うことがあった。

 あの映像で思い当たるものと言えば…あれ、かな?

 私はそれについてホロウさんに伝えた。


「御神楽さんの記憶の映像でたぶん、なんですけど…心当たりあります」

「それはなに?」

「『Keep Yourself』っていう曲が御神楽さんの心の支えになっていると私は思うんです」

「なるほど…早速検索をしてみるわね」


 とホロウさんは検索をする。

 すると、同じようなタイトルであろうジャケット写真が目の前に現れる。


「この中にその曲に該当するものはあるかしら?」


 と言われ、私は探してみる。

 えっと確か、月下美人って花がジャケット写真だったよね…。

 それらしきものを探してみるが、おおよそ正解の物は見つけられなかった。


「あれ…?見つからない…」


 と私が言うとホロウさんはぎょっとした。


「う、嘘…」

「なんなんですか?ポンコツですね…」


 とブルートはホロウさんをバカにするように鼻で笑う。


「もしかして、CDでしかリリースされていないものなのかもしれませんね…」


 と優紗は言うがホロウさんは…。


「だとしても、ちゃんと検索には出るはずなのだけど…」

「よほどマイナーなものなのかもしれませんわね…。インディーズで活動してて、短い期間で解散してしまった方々ならば余計に…」

「その曲、どんなジャケット写真だったか覚えてるか?」


 と穂村さんは私に聞く。


「えっと、月下美人っていう白い花が一輪写ってるものでした」

「バンド名は?」

「…ごめんなさい、そこまではわからなかったんです。あの映像では優紗の言う通り、すぐ解散しちゃったんだって」

「…俺、それに心あたりがあるかもしれねぇ」


 と穂村さんが言う。

 それに私たちは声をあげて驚いた。


「も、もしかして、穂村さんのご両親が歌っていたものなのですか!?」


 と優紗がいうがすぐに穂村さんは違うと答えた。


「俺のダチの親で昔バンド活動してたっていう人がいてよ…。当時はそこそこ人気があったらしい。聞かせてもらったことがあるが、マジでいい曲だった。有名じゃないのがもったいないくらいに。その中でひと際印象に残っている曲があってよ…その曲名が『Keep Yourself』」


 そして穂村さんは考え込んだ後こういう。


「あの白い花の名前は知らなかったが、それが月下美人なら十中八九間違いねえと思うぜ?」


 と穂村さんは言った。

 

「じゃあ、その友人に連絡取れないかしら?曲をダウンロードしてほしいって頼んでほしいの」

「ああ、頼んでみる」


 ホロウさんに頼まれ、穂村さんはその友人に電話をかけることにした。


「あっ、もしもし?頼みたいことがあって電話したんだけどよ…。あぁ?!ちげぇよ!合コンには興味ねえって言ってんだろ?!…ったく、話を脱線させんなよ。お前んとこの親御さん、昔バンドやってただろ?」

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