提案

「夏休みだもの、時間はたっぷりあるわよね?」


 とホロウさんは私達に黒い…いやもうそれを通り越してむしろ清々しいほどの笑顔を向けた。


「すげぇ嫌な予感がするな」

「珍しく奇遇ですね、焔竜。私もそう思ってたところです」


 とホロウさんの清々しい笑顔を見て穂村さんとブルートは珍しく意気投合する。

 ぽかんとしている私たちに構うことなくホロウさんはぱちんと指を鳴らす。

 すると壁に『特別強化プログラム』と書かれた文字がプロジェクターのように浮かび上がってきた。


「特別強化プログラム…?」


 と穂村さんは声に出して読んだ。


「これから出てくる敵はもっと強くなってくるかもしれないわ。そのためのプログラム」


 とホロウさんは言うが、穂村さんと優紗はどうも納得がいかないといった風な顔だ。


「そこの二人は納得いってないといった風ね。『稲荷・雅』こと御神楽慧架には必要ないけど、あなたたちには必要な事よ」

「なぜ、わたくしたちは必要なのでしょうか?」

「あなたたち、黒景やブルートとほぼ互角の戦力だったでしょう?ぎりぎり勝てたっていう感じじゃなかったかしら?」


 とホロウさんが聞くと穂村さんと優紗は渋い顔をする。

 たしかに、ユグドラシルONLINEトップ3を飾っている二人ではあるけど…。

 皿木の組織ではたぶん下っ端であろう黒景とブルートが穂村さんと優紗と同等の強さだった。


「これから出てくる敵はもっと強くなると予想するわ。いつもギリギリで勝っていちゃ、間に合わないのよ。だからそのための特訓ってところね」

「普通にユグドラシルONLINEで強化するだけじゃダメなのかよ?」

「それでもいいんだけど…経験値が多い高レベルのモンスターたちを探して倒すのは探すのに時間がかかる。私の考えたものの方が手っ取り早い」

「すみません、私はそもそも協力するなど一言も言ってないんですが?」


 とブルートは話を遮る。


「あなたのあこがれの存在である御神楽慧架の助けになれるのよ?光栄なことじゃないの?」


 とホロウさんはブルートに言うと、「ムゥ…」と言って顔を渋らせる。

 どうやら御神楽さんの助けになれるというのは彼にとって魅力的に思えたようだ。

 だけど、それよりも敵であった私たちを助けるということになるという考えが彼の顔を渋らせた原因だろうなと私は考えた。

 特に穂村さんとは相性が悪いようだから…。


「ブルート、あなたが頑張れば御神楽慧架はあなたのことを少しは見直してくれるかもしれないわよ?いい関係になれる可能性も高まる」


 とホロウさんはブルートに悪魔の(?)ささやきをする。

 痛いところを突かれたのか、余計顔を渋らせ小さい声で唸る。


「ホロウ、あの変態吸血鬼の扱い方つかんできたらしいな」

「わたくしにはただ単に御神楽さんをダシに無理やりにでもこちらに引きずり込もうとしか見えませんが…」

「ブルートは本当に御神楽さんのとこを愛してるんだなぁと私は感じるな…」

「そうかぁ?にしては愛が歪みすぎてねえか?対象だった慧架もマジでドン引きしてたっぽいし…」

「まあ確かにゆがんだ形ではありますが、愛の形は人それぞれですわ。彼はそうやって有り余る想いを伝えようとしたのでしょう」

「なんか優紗が言うと妙に説得力があるね」

「あらそうですか?ありがとうございます」


 という話をしているとブルートの声が聞こえてくる。


「ちょっとそこの三人!聞こえてますよ‼‼‼」


 


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