私は役に立てません。
「はぁ?」
と穂村さんは声に出す。
優紗もホロウさんも突然のことにぽかんとする。
「えっ、それ本当なの?」
一番最初に我に返ったのはホロウさんだ。
「本当です。確かあの精神データの入っている小箱の影響で漏れた残滓が私の精神に反応したからだって夢の中にいた雪菜さんは言ってました。普通夢ならほとんど覚えていないのに、この夢だけははっきりと覚えている…これが何よりの証拠だと私は思っています」
と私はホロウさんの返答に答えた。
するとホロウさんは考え込む。
そして口を開きこう言った。
「ということはこれからの調査にはむやみやたらに御神楽慧架を連れて行くことはできなくなるわね…。皿木の目的である雪菜の次の器が目の前にいることになるのだもの。格好の的になってしまうわ」
「それに今の御神楽さんの心身の状態もありますわ。次の探索場所は御神楽さん抜きで実行した方がよろしいかと」
と優紗がホロウさんに提案する。
「戦力が大幅に減ってしまうのは痛いけれど仕方ないわね。新しい探索者を迎え入れるにも時間がかかるわ…」
と、ホロウさんはまた考えこむ。
あっ、いつの間にか、ブルートのアバター装備が解けている。
仮面をしていて素顔を隠していたからわからなかったけど、大人びた整った顔をしているな、とふと思ってしまった。
そして、ホロウさんはブルートに視線を移す。
彼を見た瞬間、ニヤリと笑う。
ブルートはそれを察してか心底嫌そうな顔をする。
「な、なんですか?その薄気味悪い笑顔は…」
「おい、ホロウ…。まさかだけどよ…こいつを、ブルートを慧架のかわりにするとかいいだすんじゃないだろうな?」
穂村さんはホロウさんにそう聞く。
「そのまさかよ、穂村炎真。ブルートと言ったわね?あなた、こちら側になりなさい。こちら側にいた方が御神楽慧架とずっといられるんだからいい条件だと思うけど?」
「なるほど、それはいいですね…と言いたいところですが私は力にはなれません」
「それはどういうことなのですか?」
と優紗はブルートに聞く。
「皿木に失敗してしまったのがわかってしまったようで…私のアバター『吸血鬼・ブルート』はあちら側の手に渡ってしまった。つまり、私は戦うアバターを持ち合わせていません」
とブルートは自分の端末の画面を私達に見せる。
そこには『ユグドラシルONLINE』のアバター画面が映っていた。
本来ならば自分のオリジナルアバターが映っている場所に『吸血鬼・ブルート』が映っていなかった。
代わりにあったのは『NOT FOUND』と書かれた文字のみ。
「というわけで、今の私はブルートではなくなったというわけです」
「じゃあお前のことはブルートじゃなくて『変態ストーカー野郎』って呼んでやるよ」
「やめてください、嫌に決まっているでしょう?」
「事実だろうが」
穂村さんとブルートのやり取りを見てホロウさんは「どういうこと…?ホントに何があったの…?」と不安な顔をした。
「アカウントがごっそり乗っ取られたってわけね…。だけど、それくらいどうしたの?」
「まさか、私にサブアカウントを作れと?今から作り始めたとして、あのレベルまで仕上げるのにどれほど時間がかかると思ってるんです?」
とブルートは言う。
確かに、彼の強さは凄かった。
あのレベルの強さを今から作り始めたとて、アバターの素材集めやレベル上げは相当時間のかかるものだけど…。
なにか策はあるのだろうか?
「せっかく今は夏休みなのだし、時間はたっぷりあるわよね?」
とホロウさんはふふっと笑う。
なんだろう、その笑いに私は、私達はとても嫌な予感がしてならなかった。
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