崩壊する空間

『空間の完全崩壊が近いわ、長居は危険よ。さあ早く』


 というホロウさんの声に私たちはこの空間の状況を見る。

 天井の崩落、壁が崩れてきている。

 本当に長居は危険だ。

 ブルートはいまだどうするか迷っているようだ。

 穂村さんは御神楽さんを抱きかかえて、先にワープホールへ入っていった。


「叶波?急がないと…」


 と優紗はワープホールに入ろうとする足を止め、私のことを呼ぶ。

 

「ごめん優紗、ちょっと待ってて!というか先に行ってて!」


 私はブルートの方へ歩いていく。

 優紗は「承知いたしましたわ。お気をつけて」といい、先にワープホールへ入っていった。


「りっぷる…。あなた先に行かなくていいんですか?敵側である私と二人きりですよ?」

「あー…うん。そう…だね?」

「だったらもうお行きなさい」

「嫌だ」

「はぁ!?」


 ブルートは私の「いやだ」という返答を予想していなかったのか初めて心の底から驚いた声を出す。


「確かに敵同士だったけど…いまはもう帰る場所がないんでしょ?」

「そうですが…それはあなたたちには関係のないことでしょう?」

「うん、それはそうだけど…」

「だったら早く行きなさい」

「嫌だ」

「だからなんでそうなるんですか!」

「置いていくのは嫌だ。だからブルート、あなたも来て」

「え?」


 と気の抜けた声をブルートは出した。

 そんな間に私はブルートの腕をつかむ。


「はぁ?!ちょっ…離しなさい!」


 腕を振り解こうとするブルート。

 でも、私は離そうとしなかった。

 

「ちょっと!聞いてるんですか!」


 というブルートを無視して私はワープホールへ。






----------

 

 そして、また『あの部屋』へとくることができた。

 来た回数はそれほど多くはないはずなのだけれど、実家に帰って来たような不思議な安心感がわいてきた。


「すみません、お待たせしました!」

「来るのが遅ぇと思ってたら、ブルートを連れてきていたんだな」


 と穂村さんは私に言った。


「えらく強引に連れてこられましたよ…全く」


 とブルートは穂村さんに向かい言う。


「全員揃ったわね。お疲れ様、みんなよく頑張ったわ」


 とホロウさんは私達にねぎらいの言葉をかける。


「御神楽慧架は満身創痍と言った風だけど、いったい何が起きたの?とりあえずだけど、ここに横にならせてあげなさい」


 とホロウさんは何もなかった場所簡易的なベッドを出す。

 穂村さんは御神楽さんをベッドへと移した。


「どうして御神楽慧架はこういうことに?」

「喪失していた記憶が一気に戻ってきたらしくって…」


 と私はそうホロウさんに伝える。

 

「記憶が戻ったのね?それはよかった…とは言えないわね、一概に」

「私はあのサーバーの中で御神楽さんの過去に関する映像の一部を彼…ブルートによって見せられました。内容はおおよそ普通とは言い難い…壮絶なもので…」


 私は見た内容を話した。

 御神楽さんは『御雅楽教』の雅楽様と呼ばれる存在だったこと。

 御神楽慧架というのは本名ではない。

 本名は『雅遼御来がりょうみくる』であるということ。

 御神楽さんは自身の父親である『雅遼御新がりょうみあら』から虐待を受けており、殺されかけたということ。

 でもそんな御神楽さんを助けてくれたのが『三佐恵果さんさけいか』という女性。

 御神楽さんは彼女とともに雅遼家を出るが、その道中で何者かにより御神楽さんたちの逃走先の家が火事になり、『三佐恵果』は火事による事故で亡くなってしまったということを私は話した。


「そんな暗い過去がおありだったなんて…」


 優紗は気を失っている御神楽さんの手を握る。

 

「慧架にあったあの時の違和感…やっぱり間違ってなかったのか…。お前があの時の雅遼御来だったんだな…。わかんねぇよ、バカ…」


 穂村さんは御神楽さんに言う。


「穂村さん、御神楽さんのこと何か知っていらっしゃるの?」


 と優紗は穂村さんに聞く。


「いや、知ってるっていうほどのあれではないんだけどよ。俺と雪菜、小学生の頃に慧架の家に忍び込んだことがあるんだ。そん時にあったのが初めてだった。俺はそれ以来会ってねえが、雪菜が『ミクルちゃんとあったよ、友達になった!』っていうのを聞いたくらいで…」


 穂村さんはまだ信じられないという風だった。


「いうタイミングを逃してなかなか言えなかったんですが…私、夢の中に雪菜さんが現れたんです。その時、彼女が言っていました。『私の精神の器となりえる人物はミクルちゃん』だって…。御来さん…つまり御神楽さんが雪菜さんの器になる人物だったんです」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る