あなたはどうするつもりなの?

「叶波、参りましょう!」

「う、うん!そうだね!」


穂村さんの戦いを目を引かれてて自分も出なきゃ行けないことをすっかり忘れてしまいそうになった。

こんな時になにぼーっとしちゃってるんだ、私は!!

それにしてもあんなに激しい攻撃をものともせず跳ね返す御神楽さんの強さって一体…。

それほど今まであの人は言い方は良くないかもしれないけど…手を抜いていた、ということなのだろうか?


薔薇円舞ローゼワルツ


と優紗は御神楽さん目掛け、薔薇の花びらをあしらった竜巻を放つ。

その様子はまるで薔薇の花びらが踊っているようだ。

まさに優雅で華やかな『エルフ・ロゼッタ』らしい技だ。


「要は御神楽さんの視界を狭めることが出来ればいいのです。無闇矢鱈に傷つける必要はありませんわ。穂村さんの場合はただ単に本気で戦闘を楽しんでいらっしゃいますが…そこはあまり気にせずに行きます」


 そういった優紗の顔はすんっとしていた。

 そうか…御神楽さんの視界を悪くすればいいのか…。

 だったら私の『水泡バブル』はうってつけの技かもしれない。

 威力こそは弱いけれど、少ないMPで沢山のぷかぷか浮かぶ泡がたくさん出すことが可能だ。


「うん、視界を悪くするくらいなら私でも抵抗せずにできそうかも!」


 私は『水泡バブル』を唱える。

 勢いよく、泡が御神楽さん目がけて飛んでいく。

 優紗も続けて『薔薇円舞ローゼワルツ』を繰り出していく。

 だけど、それでも御神楽さんの力にはかなわないのか呆気なく散っていった。


「『炎焔のファイアウォール』!」


 穂村さんの炎の壁が御神楽さんを囲む。

 これで御神楽さんの活動範囲は狭められた…かに思えた。


「嫌あああああああ!!!!」


 穂村さんの炎の壁にに包まれた瞬間、御神楽さんはまた何かにおびえたように叫び始める。

 そしてその場にしゃがみこんだ。


「嫌だ…!嫌だ嫌だ嫌だ‼‼‼来ないで…来ないでよ‼‼‼」


 迫りくる炎にあまりにおびえた御神楽さんの姿を見て穂村さんは攻撃を止めた。

 御神楽さんの叫びとともに炎の壁は消えた。

 御神楽さんの気でそれが消えたのか、穂村さんの意志で消えたのかはわからなかったけれど。


「慧架、お前は一体何におびえてるんだよ…?何に苦しんでるんだよ?」


 穂村さんが御神楽さんの肩に触れようとする。


「…仕方ないですね」


 と穂村さんの少し離れたところにいたブルートがそう言った。

 続けて…。


「なんで近づくはずだった私より先にあなたがいるんだ…。落とすんじゃありませんよ…っと」


 と言った後、ブルートは持っていた精神データの小箱を穂村さん目がけて放り投げた。

 突然のことにぽかんとした穂村さんだが、すぐに慌てて小箱を取りに行く体勢に。


「あっぶねぇな!こわれたらどうすんだよ!?」

「そんなことはどうでもいいです、はやくそれを雅楽様に」


 とブルートは穂村さんにそういう。

 穂村さんはしゃがみこんだ御神楽さんを見て小さく「悪いな…」とつぶやいた。

 そして小箱を御神楽さんの手に触れさせる。

 すると御神楽さんは「うぁっ…」と呻いてその場に倒れ込んだ。

 御神楽さんの暴走を止める作戦は成功。

 敵地で雪菜さんの精神データが隠されているあの小箱も無事回収。

 今回の任務はこうして成功したのだった。

 そして成し遂げたことにより、この空間に歪みが生じ始めた。

 それを察してか、端末越しにホロウさんの声が聞こえた。


『無事達成できたようね、お疲れ様。さあ早く、こっちに』


 とワープホールが現れる。

 穂村さんは意識がない御神楽さんを抱きかかえる。

 私たちは急いでそれに入ろうとするが一つ心残りができた。

 ブルートだ。

 彼は敵だ。

 しかしブルートは御神楽さんに出会いたい一心で敵になったに過ぎない。

 彼の御神楽さんに会うという目標は達成した。

 皿木のもとへと戻る理由はもうないのでは?


「ブルート、あなたはどうするつもりなの?」


 私は彼にそう聞く。

 それを聞いてブルートは不思議そうに私を見た。


「敵である私のことを心配するなんて…ずいぶん余裕なんですね。まあ私は戻ったところで皿木たちにとってはもう用済みの存在だ。データも奪われてしまったしね。帰る方法も教えられていません。ここで死ねってことなのでしょうね」


 ブルートは乾いた笑いをしながらそう言った。

 その顔はどこか、悲しそうな顔をしていた。


『帰る場所がないの?だったらこちらに来てくれないかしら?向こうの情報を知っている者がいるのならこちら側としても助かるのだけれど』

「私は敵側の人間ですよ?素直に教えるとでも?」

『でしょうね、思ってないわ』

「ブルート、あなた素直にお言いになった方がよろしいのではなくて?まだ、御神楽さんのそばにいたい気持ちがあるのでしょう?」


 優紗はそう言うとブルートは苦虫を嚙み潰したような顔をする。

 図星であるようだ。


「まだ死にたくねえんだったら来ればいいんじゃねえか?まあ、なんだ…慧架になんかしようとした素振りを見せたらそん時は俺が叩き潰すまでだけどよ」

「わたくしも協力しますわよ、穂村さん。叶波もですわよね?」


 と優紗は私にも話を振る。


「えっ!?あっ、うん!そうだね」

「慧架の容態の方が心配だ」

「ですね、短時間に2回も気を失っています。一度お医者様に見てもらった方がよろしいかと。…難しいのであればわたくしの家で保護するという形もとれますわ。問題は常に見てくれる方がいればいいのですが、叶波と穂村さんはわたくしの家から遠いですわよね…」


 そうだ…こういう風に会っているから近くにいるように感じるけれど、実際はお互いの住んでいる地域は全然違う。

 そのことをすっかり忘れていた。

 私の住んでいるところと優紗の家がある都会は車でだと大体4時間…どんなに早く着こうとして新幹線に乗っても2時間ほどはかかる。

 毎日とはいかずとも、新幹線で通うってなると金銭的な問題が発生する。

 …バイト、始めるか?

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