記憶ダイブ5

 視界が明るくなる。

 見えたのは白い天井。

 どうやら御神楽さんは病院のベッドで寝ていたようだ。

 っていうことはさっきの場面の続き…?


「御来!…ああ、よかった」


 恵果けいかさんは目を覚ました御神楽さんを見てほっと息をついた。


「…ここは?」

「御来は初めてよね。ここは、病院よ」

「病院…?うっ…!」


 無理に起き上がろうとするが、体が痛むのかそのまままたベッドに倒れこむ。


「御来、無理はだめよ?あなた、丸二日寝ていたんだから!」

「ふぅん…二日も…。そういえばぼくはなんで外にいるの?」


 二日も寝ていたことよりもなぜ自分が病院にいるのかを聞く御神楽さん。

 それを聞いて恵果さんは少々困った顔をした。


「あまり思い出したくないかもだけど…、2日前、御新さまに…お父さまに殺されかけたのよ?もう、私はあなたをあの場所においては置けないと思った。だから逃げ出したの、あそこから」


 と恵果さんは言う。

 それを聞いて御神楽さんはぽかんとした顔をする。


「逃げ出した…?」

「ええ、そうよ」

「どうやって?」

「あなたに馬乗りになった御新さまを後ろから殴って気絶させたところを誰にもばれないように裏口を使って逃げたわ」

「裏口?恵果が作ったの?」

「いいえ、美月さま…あなたのお母様が『私の子どもに何かあったら使って』と託してくださったの」

「母…さんが…?」

「そう。美月さまはね、本当にあなたのことを愛していた。でも、あなたを産んだあと死んでしまうのをもう知っていた。それじゃあ自分の子どもを助けることができない。だから、私に託してくださったの」


 と恵果さんはいう。

 いったい恵果さんと御神楽さんのお母さんってどんな関係だったのだろう?

 自分の子どもを任せたのだから、相当固い信頼で結ばれている関係なのだということがわかった。


「さあ、これからあなたは自由よ。好きなことが何でもできる。まずは何がしたい?…まあ、この傷が治った後になってしまうけれど…」

「ぼくは…ずっと恵果と一緒にいたい」


 と御神楽さん。


「えっ?」

「もう、独りになりたくない。だからお願い、ぼくから離れないで…!」


 と涙をボロボロと流しながら言う御神楽さん。

 しばらくはわんわんと泣きじゃくっていた。




「…泣いたらスッキリした。ゴメン、恵果」

「謝らなくていいわ。泣きたいときは泣きなさい。あなたは我慢しすぎてたからね」

「うん、ありがとう。あのね、ぼくから離れないでって言ったけど…」

「うん?」


 御神楽さんはもじもじとする。


「も…もしね、恵果に好きな人ができたらそっちを優先してね。ぼくは恵果が幸せになるのが一番だから」

「へっ!?」


 と御神楽さんがにかっと笑いながら言う。

 それを聞いた恵果さんは素っ頓狂な声をあげて顔を真っ赤にさせる。

 ついでに座ってた椅子から転がり落ちた。


「恵果!?」

「大丈夫、大丈夫よ…」

「ぼくね、いつまでたっても恵果に頼りっきりじゃあダメだっていうのはわかってるんだ。それじゃ弱いまま。だからね、やりたいこと見つけた。ぼく、友達が欲しい」

「わかったわ。退院したらここより遠い場所に行きましょう。そこであなたの新しい人生を始めるの」

「うん、ありがとう」


 御神楽さんは「ついでにだけど、あのくそオヤジを殴ってくれてありがとう」といたずらっぽく笑って言う。

 それに関して恵果さんは困った顔をしたが、「どういたしまして」とどこかスッキリした顔をしていた。

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