記憶ダイブ

 また次の場面に切り替わる。

 この場面の御神楽さんもやっぱり泣いていた。

 たぶん、御神楽さんのお父さんにまた暴行を受けたからだと思う。

 でもまたけいかさんが来て手当てをする。


「痛…」

「傷口にしみたかしら?大丈夫?」

「大丈夫…。これくらい我慢できる…!」


 と幼い御神楽さんはプルプルと震えながら傷口に消毒液が染みる痛さに耐えていた。

 その反応は年相応の子どもらしい反応だったので私はつい、口元がほころんでしまった。


「ねえ、けいか…」

「うん?どうしたのミクル?」

「ぼく、なんで家の外から出ちゃダメなんだろう?父さんはぼくが外へ出たいって言ったらものすごく怒ってさ…。外に出るのがそれほど悪いことなの?」


 外に出たらダメ…?

 それってどういうことなのだろう?


御新みあらさま…御来みくるのお父さまはね、あなたを外に出したくないのよ」

「だから、どうしてなの?」

「…」


 とけいかさんはどう話せばいいのだろうかという感じで頭を悩ませる。


「お父さまが美月様…御来のお母様を大変愛していらっしゃったのは知ってる?」

「うん。父さんはぼくのせいで母さんが死んでしまったって言ってた…」

「お母様の件は仕方ない…っていう言い方はおかしいわね。言い方は難しいけれど、美月様はもともとお体が悪かったから…。でもね、美月様はあなたがまだお腹の中にいるとき早く会いたいなっていつも言ってたわ。お母様はあなたを愛していたのを私は知っている。御新様はたぶん、その愛がもう自分だけのじゃなくなったのが怖くなったのかも」

「怖い…?あの父さんにもそんな感情があるの…?」


 げぇ~っと御神楽さんは信じられないといったような顔をする。

 それを見てけいかさんはフフっと笑う。


「でも、それとぼくが外に出てはいけないのは理由にならないよ?」

「うーん…これは私の憶測でしかないのだけれど…。御来、あなたの顔がだんだんお母様に似てきているからかしら?手放したくないんだと思うわ、美月様の面影のあるあなたを。外に出ちゃうと、あなたがほかの誰かのものになってしまうのを恐れているのだと思う」

「そんなつまらない…理由で?ぼくよりも父さんの方がわがままじゃん。自分はわがまま言うなっていうくせにさ…」


 とけいかさんの憶測を聞いて御神楽さんはぶーぶー言い始める。

 こういうのも今の御神楽さんらしくて私は微笑んでしまう。

 よほどけいかさんのことを信頼しているのだなと私は思った。


「そのうち出れるようになるわ、あなたが高校に入学できるような年齢になれば、この役目も終わるから」

「えー…それって何年かかるの?あっちょっとまって、計算するから…うへぇ~あと七年もある…」


 ってことはこのころの御神楽さんは8さい…、小学校の低学年くらいか。

 そんな幼い時からこんな生活を強いられているなんて…。

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