新しい家族、モコ
なんやかんや私は仕度を終える。
ちょうどいい時間帯でお母さんが帰って来た。
買い物袋を持っている限り、先にもう買い物は済ませてあるようだ。
「おかあさん、おかえり」
「ただいま」
「あれ?そう言えばお父さんは?」
いつも同じタイミングで帰ってくるお母さんとお父さんだが、今日はお父さんだけいない。
…残業かな?
「お父さんは今日飲み会だって」
とちょっと不満そうにお母さんは言う。
「ありゃりゃ…。あっ!洗濯物たたんでおいたよ!あと、お風呂場洗っておいた!ついでにお湯も溜めといたから先に入ってて。晩御飯も何なら作っておくよ」
「叶波~、あなた本当にいい子ねぇ~!お母さん嬉しいわ~!」
とお母さんは私の頭をくしゃくしゃと撫でながら、嬉しそうにお礼を言う。
なんだかちょっと照れくさいな。
お母さんは材料はこの中に入っているからと言って、先にお風呂場に行く。
それを確認した後私は、買い物袋の中を漁る。
入っていたのは卵、鶏肉、玉ねぎ…これは親子丼の材料かな?
一応お風呂場にいるお母さんに親子丼で会っているか聞いてみる。
「おかーさーん!この材料、親子丼で合ってる~?」
「合ってるわよ~」
「わかった~!」
よかった、正解のようだ。
さっそく私はつくりにかかる。
まず最初に鶏肉を食べやすく、火の通りやすい大きさに切る。
それを出汁と一緒にまとめて煮込む。
こうすればスピーディーに仕上がるってお母さん言ってた。
鶏肉に火が通ったら薄く切った玉ねぎを入れる。
そして仕上げに溶き卵をそれらにかける。
鍋にふたをして少し待てば、親子丼の完成!
どんぶりにご飯を持ってさっきできたのをのせればいつでも食べる準備はOKだ。
あとはお母さんがお風呂から上がってくるのをまとう。
その間にモコの様子はどうか、端末の画面越しに見てみることにした。
「モコ?」
私がそう呼びかけるとモコはぱぁっと明るい表情を見せる。
そしてそのまま私のところに向かってくるが、画面にドンっ!と顔を勢いよくぶつけてしまった。
「モコぉ~!?!?」
モコは涙目になっていた。
そりゃそうだ、あれは絶対に痛い。
「モコ、大丈夫!?」
私が心配してそう呼びかけるとモコは心配をかけまいと、こぼしそうになった涙を必死でこらえていた。
えらいね、こんどご褒美をあげよう。
「あんた、さっきからなに大きな声で叫んでるの?」
お母さんがお風呂場から戻ってきたようだ。
「あっ…いやぁ…」
「何隠してるの?」
とお母さんは私の端末を取り上げた。
「亀…??」
お母さんはきょとんとした顔をする。
「『綿草亀』のモコです…」
「モコ…???」
お母さんはさらにきょとんとした。
なので私はことの経緯を説明することに。
モコは電脳ペットであること。
モコとの出会いは今日の夕方あたり…つまりはお母さんが帰ってくる前。
怪我しているところを保護したはいいけど、野良のままではけがを治すことはできないので電脳ペットにしたということをお母さんに説明した。
「そう…。んで、その子怪我はもう治してもらったの?」
「うん、友達が治してくれたの」
「…そのお金はかからない?」
「友達が育成キットくれたから大丈夫」
「そうなの。じゃあ今度そのお友達にお礼をしなくちゃね」
「…うん、そうだね」
わかっているんだけど、優紗の家お金持ちだしなぁ…。
何がどうお礼になるのか、イマイチよくわかんなかったりする。
モコの様子を見てみると、お母さんの方を見て「誰?」と言いたそうな顔をしていた。
とりあえずモコにはメッセージで私のお母さんだよということを伝える。
それを知ってモコは安心していた。
「この子、文字分かるの?」
とお母さんはモコに興味津々だ。
「賢いわね~!さすが技術は進歩してるわ~。すごい時代になったわね、本当に」
と現代技術にお母さんは感動していた。
お母さんはどうやらモコのことを新しい家族と認識してくれたみたいだ。
少し一安心だ。
…問題はお父さんだ。
モコのこと、認めてくれるかな…?
ご飯を食べた後、私はお風呂に入り宿題を済ませる。
そして時間はちょうど22時。
このまま寝ようか、それともユグドラシルONLINEをしようか、私は迷っていた。
モコのことも心配だからということもある。
端末の画面上からも確認できるけど、モコを直にお世話したいというのもある。
過保護すぎだろうか…?
マイルームの中だけだし、特に目立った行動はないと思うから安全だし。
うん、少しの時間だけユグドラシルONLINEをしよう。
そう思い、私は専用ドライブでログインを開始した。
そしてマイルームへ。
モコは私に気付き、走って近づいてきた…ちょっと警戒して。
画面にブチ当たった時のあれが余程痛かったのかもしれない。
「警戒しなくて大丈夫だよ。画面越しじゃないから」
と私はモコにそう伝える。
するとモコは嬉しそうに私に飛びついてきた。
あっ、やっぱかわいいな?
ペットを飼って親バカになる人の気持ちってこんな風なのか、と私は心の中で思った。
そりゃ親バカにもなるわ…。
と思っていると、ホロウさんからメッセージが来た。
それを見て私はドキッとした。
まさか、もう次の情報がわかったのだろうか?
恐る恐るだが、メッセージを開いてみることに。
内容はというと…。
『ああ、驚かせてごめんなさい。次のがわかったとかそういうメールではないんだけれど…。少し、だけでいいのあの部屋に来てくれないかしら?もちろん、みんな誘ってあるから』
と書かれてあった。
次のことじゃないんだ。
と私は安心する。
まだ何の準備もできていなかったから…また私だけ守られるなんて嫌だもん。
もうちょっと強くなるための準備ができるのだとわかって私は安心した。
私は、わかりましたとメッセージを送る。
「私、呼ばれたからここで待ってくれる?」
そう私はモコに伝えると、シュン…と悲しそうな顔をする。
うぐっ…良心が痛む。
でもここでつれて行ったらモコを巻き込んじゃう。
怪我させちゃうのは嫌だからここは心を鬼にして…!
「また来るから!ね?今日は我慢して」
と私はいい、あの部屋に通じる扉を開ける。
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