電脳ペット

 というわけで私は『綿草亀』を保護することに。

 ちーなとは別れ、私は今マイルームにいる。

 『綿草亀』は「ここはどこ?」と言いたげな目で私を見る。

 またぷるぷると震えはじめた。


「大丈夫だよ!怖いところじゃないから!安全なところだから!」


 と私は『綿草亀』を安心させるため、必死に言い寄る。

 まずは早くけがを治してあげないと。

 こういうのってどうやればいいんだろう?

 『綿草亀』の飼育法自体、載っているかどうかも危うい。

 なにせ出現率が低いレアな魔獣だからなぁ…。

 現実世界にいる亀と同じような保護の仕方をしても大丈夫かな?

 あっ…、『ユグドラシルONLINE』の開発ってそういえば、優紗の家の桜宮財閥も関わっているんだったよな…。

 忙しいかもしれないけど、優紗なら何かわかるかもしれない。

 私は優紗にメッセージを送る。


『優紗、聞きたいことがあるんだけど今日ね、ユグドラシルONLINEのクエストで怪我をしている綿草亀を見つけたんだ。この子の怪我、どうやったら治せるかな?治せる方法とかって知ってる?返せるときでいいのでお返事待ってます』


 …送信っと。

 私は私のできる限りのことをしてみよう。

 今持っている薬草を『綿草亀』に渡してみることにした。

 『綿草亀』は薬草をクンクンと嗅いで、小さな舌でチロッとそれをなめる。

 その薬草はどうやら『綿草亀』にとっては苦かったようで何とも言えないような顔をする。


「いやああああ~‼‼‼カメちゃんごめんね!?苦かった?!ええっと…どうしたらいいのかな…」 



 と私が一人で慌てているとメッセージの返信が来た。

 優紗からだ、よかった…。


『綿草亀を?それはそれは…。形的にはしたということでよろしいですか?』


 と優紗から。

 私は『うん、そうなるかな?』と返す。


 『では少々お待ちになってください。今そちらに向かいますわ。文字よりも実際に会って…と言っても仮想空間ですがその方がわかりやすいと思います』


 と返信が来た。

 私はそれに了解する。

 5分程度たつと、マイルームのドアから訪問申請のマークが現れる。

 相手は『エルフ・ロゼッタ』、優紗だ。

 なんだろうこの感覚…。

 すっごいドキッとする。

 私は申請を受諾した。


「お待たせしてすみません、叶波」

「いやこっちこそごめんね?」

「問題ありませんわ。わたくし、親にはユグドラシルONLINEの時の用事はなんでもすぐに行動していいと言われておりますので」

「ふぇ~…。そうなんだ…」

「ところでメッセージの内容に書いてあった『綿草亀』は?」


 と優紗が言うので私はマイルームのテーブルの上にチマッといる『綿草亀』を手のひらの上に乗せる。


「この子だよ。ここ、怪我してるの」

「この『綿草亀』、保護している形なのですよね?」

「うん、そうだよ?」

「保護しているだけでは、この子野良扱いなんです。野良の魔獣を治すということはこのゲームのシステム的にできません」

「えっ!?」


 じゃ、じゃあこの子を治すことができないの…?


「ですが安心してください。とある方法を使えばわたくしでも治すことが可能です」


 治すことができるんだ!

 それを聞いて私はほっとする。


「それってどうするの?」

「その『綿草亀』をペットとするのです」

「ペット…?」

「はい、そうすればこの子を治すことが可能ですわ。どうします?ペット申請なさいますか?」

「この子を助けられるなら、そうする!…あなたはそれでも大丈夫?」


 私は『綿草亀』に聞いてみる。

 すると『綿草亀』はにぱっと笑い、頬擦りをする。

 まるでそれはよろしくねと言っているようだった。


「ペットにしたからにはちゃんと責任はとるようにしてくださいね」

「うん、わかってる!ちゃんと責任持つ!」

「では、この同意ボタンをタップしてください」


 と言われたのでタップする。


「この申請で料金などは発生しませんので、それはご安心ください。そして、ペットとなったこの子に名前を付けてあげてください。それで申請はすべて終了ですわ」

「教えてくれてありがとう、優紗」

「構いませんわ、お友達が困っているときは助けになりたいので」


 と優紗はにこりと微笑む。

 うーん、顔がいい。

 それにしても『綿草亀』に名前か…。

 名前、どんなのにしよう?

 名前に綿ってついているから柔らかいイメージの名前にしたいな。

 パット頭に思い浮かんだのは『もふ』、『ふわ』、『もこ』。

 

「ねえ、あなたはどれがいい?」


 思い浮かんだ候補を『綿草亀』に聞いてみる。

 するとのそのそと動き出した。

 『綿草亀』が選んだのは…『もこ』だ。

 

「それじゃあ、今日からあなたは『モコ』ね!よろしくね、モコ!」


 モコはまたにぱっと笑った。

 

「それではさっそく、モコちゃんのお怪我治しますわね」


 私はモコを優紗の手に乗せる。

 モコは不安なのか、またちょっとぷるぷると震え始める。


「モコ、大丈夫だよ。優紗はあなたの怪我を治してくれるの」

「怖がらせて申し訳ありません…。ですが、精いっぱいあなたのお怪我を治させていただきますわね」


 優紗はモコににこりと微笑みかける。

 モコもどうやら安心したようだ。

 よろしくおねがいしますといっているかのように頭を下げる。


「まあ、お利口さんですわね。それでは…」


 と優紗…『エルフ・ロゼッタ』は回復魔法である『安らぎの花篭リラクゼーション・オブ・フィオーレ』を発動させる。

 『安らぎの花篭』はモコを優しく包み込んだ。

 


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