私のモチーフ
「ちーなはどんなモチーフにしたの?」
「私?私は蝶々だよ」
あれ?妖精じゃない…?
「叶波、今絶対『あれ?妖精じゃないの?』って思ってるでしょ?」
「えっ!?どうしてわかったの!?」
「顔に出てたよ」
顔に出てたのか…気をつけなきゃ…。
「私、思ったんだよね。無理に妖精とかモチーフにしなくていいんじゃないかってさ。まあ、ただ単にぱっと思いついたのが蝶々ってだけだったんだけど」
なるほど、無理に妖精をモチーフにしなくてもいい…か。
属性で決めつけちゃうから迷うんだな。
動物とか植物、そう言うので決めて行った方が案外パッと思いついたりするのかも。
「ちーな、私もその意見使わせてもらっていいかな?」
と私がちーなにそう聞くと、彼女はきょとんとする。
「え?何が?」
「ぱっと思いついたものを自分のアバターのモチーフにするってやつ!私もどんなのにすればいいのか迷ってたんだよね。だからその考え良いなって思ってさ」
私がそう言うとちーなは「ああ、なるほど」と言った。
「そうなると私ばっかり手伝ってもらっちゃ悪いね。今度素材探すの一緒に手伝うよ」
「うん、決まったらそうしてもらう。その前に私たちは『綿草亀』を見つけなくちゃ、だね!」
「そうね。『綿草亀』ー!はよでてこーい!」
ちーなはそよ風の森の中でそう叫ぶ。
…けどその声は虚しく木霊するだけだった。
私たち二人はがくっとズッコケた。
でもそんな感じが楽しくて二人で大笑いした。
やっぱりちーなといると日常に戻ってきている感じがしてほっとする自分がいる。
「こんどははづきも誘おう。美術部の過酷な試練の後の息抜きにさ」
「うん、そうだね」
と話していると草むらがガサガサッといった。
「えっ!?なに、モンスター!?」
私とちーなはあわてて武器を取り出す。
どうか、モンスターではありませんように!
どくどくと心臓が高鳴るのを感じる。
そして草むらから現れたのは…。
「はぇ?」
小さな亀だった。
「亀だ」
「あっでもよく見て!綿草生えてる!」
ちーながそう言うので私はよく目を凝らしてその亀を見る。
「あっ‼‼‼‼」
確かにちーなの言う通り、その亀には綿草が生えていた。
じゃあこれが私達の探していた『綿草亀』!?
「なんて言うかあれだね…」
そう言って私はちーなと顔を合わせた。
ちーなもコクリとうなずいてこういう。
「うん、思ってたのより小さかった…」
「びびって損したぁ…。でもこれなら戦わずに済みそう。こんな小さな亀、倒しちゃうなんてかわいそうだもん」
「そうだね、情報に書いてある限りだと『綿草亀』は温厚な性格だって。臆病っていう理由で見つけにくいとも書いてあった」
なるほど、それじゃあ何の問題もなく甲羅草を取れそうだ。
「『綿草亀』さん、あなたの甲羅草私たちにくれないかな?」
と私がそう『綿草亀』に尋ねる。
「私たちっていうか私なんだけど、甲羅草が必要なの!」
ちーなは『綿草亀』にお願いをする。
するとその亀はぴくっとしたあと、涙目になってぷるぷると震えはじめる。
「えっ!?泣いてる!?」
突然のことにちーなと私は驚く。
「うわわわわっ!?ごめんね、ごめんね!?いじめたりしないから!ただ、甲羅草が欲しいだけなの!」
私がそう言うと『綿草亀』は涙目で「ほんとに?」と言いたそうな顔をしていた。
そして『綿草亀』はくんくんと私とちーなの手の匂いを嗅ぎ始める。
するとにぱっと笑い、『綿草亀』は甲羅の上にある綿草を口ではさみ、ちーなに渡してくれた。
「ありがとね、『綿草亀』。…あっ」
とお礼を言った後、ちーなは何かに気付いたかのように声を漏らす。
「どうしたの?ちーな」
「うん、この子…怪我してる」
とちーなが言うので私は私の掌の上にいる『綿草亀』をぐるりと見てみる。
確かに…左足のあたりに怪我がある。
「ほんとだ…。でも私たち、回復技使えないよ?」
「そうだよねぇ…。アバター用の回復薬が効くかどうかもわからないし…」
私たちはうーんとその場で悩み始める。
こういうとき、優紗や御神楽さんがいたらなにか手助けをしてくれると思うんだけど…。
たぶんあの二人忙しそうだよね…。
となると穂村さん…?
いや、彼も彼で忙しいよね。
となると…。
「このまま放置しておくのもかわいそうだから…私の『マイルーム』で預かる」
私が考え付いたのはこれしかなかった。
「えっ!叶波、あんた一人で大丈夫なの?」
「…わかんないけど、助けたいって思ったの!『綿草亀』、こんな私じゃ頼りないかもしれないけど…」
『綿草亀』は私の方をきょとんと見た後、またさっきみたいににぱっと笑顔をみせる。
…お願いしますってことなのかな?
でもこのまま放置して、心のないプレイヤーに倒されちゃうのはかわいそうだ。
だからこれが一番いい方法なのかもしれない。
…これが私のエゴなのかもしれないけど、私がそうしたいって思ったんだ。
最後まで責任をもって看病しよう、そう思った。
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