安全策

「ハッキングはされていないとはいえ、安心はできないわ」


 とホロウさんは言う。


「そう…ですよね」

「どこかで情報が漏れたという場合もある。…例えば、あなたの友人の端末を経由してという可能性もある。それか…」


 とホロウさんは何かを言うのをためらった。


「それかって…まだ他にも何かあるんですか?」

「可能性はとっても低いし…安易な発言であなたを傷つけたくないわ」

「私、メンタルは強い自信はありますよ。大丈夫です」


 ホロウさんはふう…っと息を吐く。


「あなたの友人、もしくは知り合いがあなたの情報を売ったという可能性がある。でもこれは本当に低い可能性。あなたたちの人間関係も隅々まで調べなくちゃいけない。つまり、あなたとかかわりを持つ人たちすべて疑うことを覚悟しなさい」


 とホロウさんは言った。

 私は突然のことで何も言えなくなった。


「…ごめんなさい。巻き込んだうえ、つらいことを押し付けちゃったわ。これに関しては許してほしいとかそんなことは思わない。憎まれても仕方ないことだもの」

「私は…。私はホロウさんのこと、憎んだりはしません。大丈夫です」


 大変な目には遭ったけど、別にホロウさんを憎んでいるわけじゃない。

 っていうか私にホロウさんを憎む理由もない。


「だから、そんな悲しい顔しないでください。笑顔で行きましょう!笑顔で!」


 私は暗い顔をしているホロウさんを必死に励まそうとした。

 すると、ホロウさんはふふっと小さく笑う。

 彼女のそんな表情見るの初めてかもしれない。


「私の計算であなたが選ばれた理由が少しわかったような気がするわ」

「…?」

「あなたの性格、すこし雪菜に似ているの。誰かが暗い顔をしていたら必死に励まそうとするところなんてほんとそっくり。その精神の強さ、いつか大きな何かを救うと思うわ。だから…、これからもよろしく頼むわ」


 とホロウさんは私に手を差し出す。

 私はその手を取り、握手をする。


「こちらこそ、よろしくお願いしますね!」

「対策の方は…ほんの気休めにしかならないと思うけど、このプログラミングを埋め込んでおくわ。もちろん、あとでみんなの分もね。時間はかかるからそのことを伝えておいてもらうと助かるわ」

「ありがとうございます!ホロウさんの方も、頑張ってくださいね!」

「ええ、ありがとう」


 私はそれじゃあと言って、あの不思議の部屋から離れることになる。

 そして、さっそくホロウさんに報告したことを御神楽さん、優紗、穂村さんに言う。


『後でホロウさんから連絡は来るかもしれませんが対策プログラム、埋め込んでもらえるようです!』


 と私は送信。

 しばらくすると、既読が付く。


『それはよかったですわ!』


 と優紗が返信。


『原因とかはわかったりした?』


 と次に御神楽さんがそうメッセージを送ってきた。


『原因はわかりませんでした。憶測だけど、私達の関係者の端末がハッキングされているか…それとも情報を皿木たちのところへ売ったか…っていうのをホロウさんは言ってました』

『腹は立つが、それは考えられるな』


 と穂村さんの返信。


『要するに周りを疑えってことだね』

『はい…』

『全員、目立たず慎重に動くしかありませんわね』

『特に炎真はね』

『はあ!?なんで俺なんだよ!?』

『キミ、ただでさえ目立つ見た目してるんだよ?気づいてないの?それにアバターじゃなくて自分自身でメディア出てんのキミだけなの忘れてない?』


 と御神楽さんがそう言うと、しばらく穂村さんのメッセージが送られてこなかった。

 …図星なのだろう。


『まあとりあえずだ。ホロウからの連絡が来るまで大人しくしてよう。それが一番の安全策だ』

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