私に聞きたいことは何?

「あの箱の中の情報もわかったことだし、そろそろ聞かせてもらおうかな」


 御神楽さんはホロウさんにそう言う。


「ええ。じゃあ何から聞きたい?」


 ホロウさんも快く返事をする。


「まずは『絡新婦・黒景』と名乗る人物についてかな」

「構わないわ。黒景…本名は黒木景子くろきけいこ。もとはカミキエンタープライズ…簡単に言うとユグドラシルONLINEを開発した大手企業のことね。彼女はそこの社員だったの。まあこのユグドラシルONLINEの開発には桜宮財閥もかかわっているのだけど…。ここまではわかるかしら?」


 ホロウさんは私にそう聞く。


「はぇっ!?あっ、はい大丈夫です!ついていけてます!」


 私を置いてけぼりにしないよう、気を使てくれたようだ。


「でもカミキは当時派閥があったの」

「派閥…ですか?」


 と優紗。


「それは一体どういうものなのです?」

「次期社長についての派閥よ。現社長である神木宗近かみきむねちかの娘である神木刹那かみきせつな派か、それとも甥である皿木豊羅さらぎとむらか」


 神木刹那という人物の名前を聞いた途端、穂村さんは何か思い当たる節があるような顔をしていた。

「俺はお前がその神木刹那だと思っていたんだが…違うのか?」

「…さあ、どうでしょうね?」


 とホロウさんは穂村さんの質問の答えをはぐらかし、話をつづけた。


「どちらも同い年でありながら優秀な人材でね。それゆえか小競り合いがあったの」

「あったってことはもう解決したってこと?」


 御神楽さんはそうホロウさんに聞く。


「まだ解決はしていないわ。…今思い出しても腹が立つわ。皿木あいつはカミキを裏切ったのよ」


 表情は何一つ変わってないが、壁をバコンッ!と殴ってホロウさんは怒りをあらわにする。

 その衝撃でか、壁にちょっとひびが入っていた。

 …が、すぐにそのひびは修復されていった。


「…取り乱してごめんなさい」


 というホロウさん。

 

「あんまりホロウを怒らせない方がよさそうだね」

「ああ、そうだな」

「華奢な体をしている割にパワフルですわ」

「そうですよね、だって壁にひび入れてたもん…」


 この時、私たち四人はなぞの結束力を身に着けたのだった。


「ごめんなさい、話が逸れちゃったわね」

「いいよ、気にしてない」

「簡単に言うと、黒景…黒木景子はその裏切り者の皿木の派閥にいた一社員にすぎないってことね。ほかに何か聞きたいことある?」


 とホロウさん。

 つぎに質問をしたのは穂村さんだった。


「なんで雪菜について調べているんだ?」

「炎真に付け足して質問。なんでぼくと叶波と優紗は羽賀雪菜と関係を持っていないのに【探索者】にえらばれたの?」


 と穂村さんの質問に付け足して御神楽さんはホロウさんに問いかける。


「【探索者】として選ばれたのは最初に言った通り、私の計算でより効率よく雪菜の情報を手に入れることができるという結果が出たから。それだけよ」


 とホロウさんは明らかに穂村さんの質問を無視して先に御神楽さんの質問に答えた。


「おい、俺の質問を無視するなよ」

「わかったわよ、はぐらかさないで話すわ。これを話したら穂村炎真あなた、ショックを受けるかと思って…」

「んなこと構わねえよ。話してくれ」

「本当に?」

「大丈夫だった言ってんだろ」


 何度も念を押すホロウさんに穂村さんはいかにも早くしろという風な雰囲気を醸し出していた。


「事情を知ってるのは穂村炎真、あなただけだから色々端折るけど…。その端折った部分は穂村炎真自身に聞いて頂戴ね?」

「ええ、わかりましたわ」


 と優紗がそう答えた。


「羽賀雪菜が神木家に居候してた理由は、皿木の許嫁にするためだったの」

「は?」


 ホロウさんのそれを聞いて、穂村さんは固まった。

 そして、そのままバタンと倒れた。


「ほ、穂村さん!?」

「大丈夫ですか!?」


 私と優紗は倒れた穂村さんにかけ寄る。


「ありゃりゃ、そうとうショックだったっぽいね」


 頬をかきながら、御神楽さんはそう言った。

 

「だから、ショックを受けるかもしれないからって言ったのに」


 とホロウさんはため息をつきながら言った。

 それに続けてこう言った。


「安心しなさい、羽賀雪菜はどうやら生理的に皿木のことが無理っぽかったから断ってたわ」


 とホロウさんがいうと倒れていた穂村さんは急に活発になった。


「ほんとか!?」

「羽賀雪菜に関しては外見しか見てないからぼくからはどうも言えないけど…。あんな誰でも受け入れてくれそうで優しそうな印象を受ける子からそんなに嫌われているなんて、皿木ってやつ相当嫌な性格してるっていうのがわかるね。ところで炎真、キミはその皿木ってやつに会ったことないの?」


 御神楽さんは穂村さんに皿木という人物に会ったことがないかを聞く。

 穂村さんはというと、うーんと唸りあったことがあるかどうかを思い出していた。


「いや、俺はカミキのことについて特別詳しいわけじゃないからわかんねえな。おれは神木刹那とは幼馴染だったけど特に親しいってわけでもなかったし。そんなやつが俺に身内の問題がどんなことになっているかを教えてくれるわけないだろ?」


 と穂村さんは言う。

 そのあとに続いてホロウさんはこういった。


「黒景についてはまあこんなかんじね。次は皿木一派の目的についてよね?残念ながらこちらも完璧にわかるってわけじゃないわ。憶測にすぎないの」


 とホロウさんは申し訳なさそうに言う。


「憶測でも構わない、教えてくれ」


 穂村さんはホロウさんにそう言う。


「皿木はたぶん、まだ羽賀雪菜のことを諦めてはいない。だから、甦らそうとしているの」

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