第62話

 下山した僕らを腕組みして眉間にしわを寄せる団長が出迎えた。

「アルフ! 一体どこに行っていた? 用があったなら聞こうか? 山の頂上で帝国兵と思われる奴らが暴れていたというのに集合に応じなかったな? 奴らが去ったからよいものを襲われたらどうする気だったんだ?」

 どうやら僕はサボってたと思われてるみたいだ。

 おかしいな。ちゃんと制服置いて、辞める覚悟を示したのに。

「あとお前、服を着忘れてたぞ」

「あ、あはは……すいません。えっと、ちょっとフレアが迷子になって、それで……」

 どうやら僕の意志は伝わってないらしい。

 団長は頭の後ろを掻いた。

「サラマンダーか……。あれは炎が好きだからな。大方山から降ってきた炎でも食べに行ったんだろう。まったく。モンスターの管理は魔物使いの基本だぞ! 次からは許さないからな」

「はい! すいませんでした!」

 僕は深々と頭を下げた。

 憲兵を辞める覚悟で出発したけど、続けさせてくれるならその方が良い。

 僕は人知れず胸を撫で下ろした。

 その横でフレアが腕を組んでうんうんと頷いている。

「どうやら反省してるみたいだね」

 人のせいにされてフレアは怒っていた。

 しずくは呆れ、ウィスプは苦笑している。

 そこへもう一人がやって来る。

 団長は驚いて彼の名前を呼んだ。

「カイン・ネロ・アルバレス! 生きていたのか!?」

「まあ、俺くらいになると死ぬ方が難しいんで」

 カインは少し申し訳なさそうにしながらも微笑んだ。

「そうか。いやはや流石だな」

 団長が嬉しそうにカインの肩をぽんと叩く。

 すると団長がカインの足下になにか見つけたようだ。

「おや? それはなんだ?」

 そこにいたのは黒い毛をした小さな子犬だった。

 カインは肩に乗るサイズの子犬を抱き上げた。

「えっと、あのフェンリルの子供みたいです。親を倒したら岩陰から出てきました。あのままいても他のモンスターに食われるだけでしょうし、かわいそうなんで飼ってやろうかなと」

「そうか……。優しいな。親が敵だったとは言えまだ子供。ちゃんと育てれば良い子になるだろう。どうこう言う者はいるだろうが、なあに気にするな。そうだ。名前はどうする?」

「えっと……」

 さすがに名前までは僕も考えてなかった。

 リルって呼んでも問題ないかもしれないけど、後々のことを考えたら別の名前にした方がいい。

 カインは子犬の首輪を見て答えた。

「ジローです」

「じゃあ雄か。将来大きくなったら猟犬になれるかもな」

 団長が頭を撫でると子犬は抗議するみたいにわんわんと吠えた。

 その光景を僕らは苦笑いをしながら見ていた。

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