第61話

 僕はリアスを縛り、帝国が山の麓に建設途中の前線基地へ連れて行った。

 リアスは観念したのか黙って歩いていく。

 リアスの姿を見るとすぐに事態を理解したのか、彼とよく似た金髪碧眼の女の子が出てきた。

 彼女にリアスとカインの交換を持ちかけるとすぐさま応じてくれた。

 今、基地から離れた場所で彼女の横にはカインが立っている。

 僕らは同時に縄を解き、二人を交換した。

 リアスが近づくと傷ついた顔を見て女の子は青ざめた。

「お兄様! いけない! 今回復を!」

「なんともない……。我に触るな……!」

 リアスは苛立ち妹の手を振り払った。

 そして振り向き僕らを睨んだ。

「アルフと言ったな? 貴様らは我が必ず駆逐する。必ずだっ! これから戦火は苛烈を極めるだろう。我と会うその時まで精々生き延びろ!」

 それだけ言い捨てるとリアスは前線基地の中に消えていった。

 僕らが基地を破壊すると言ったのが伝わったのか、中から慌ただしい音が聞こえてくる。

 どうやら撤退してくれるらしく、僕はホッとした。

 フレアやしずくに加えてリルまで僕らの側にいるんだ。

 勝ち目はないと判断したんだろう。

 さすがにフェンリルを越えるモンスターは用意していないらしい。

 もうこれ以上戦いたくない僕は安堵した。

 するとカインがむすっとした顔でゆっくりと歩いてくる。

 怪我はしてるけど大丈夫みたいだ。

「よかった……。カイン。僕頑張っだばふっ!」

 カインは喜んで迎えた僕の顎にアッパーカットをお見舞いした。

 なんでー?

 僕の体は吹っ飛び、地面に落ちて大の字を描いた。

「ぐへっ」

「誰が助けろって言ったっ!? 雑魚の癖に出しゃばるんじゃねえっ!」

 ええー……。

 そんなー……。

 涙目で笑いつつも倒れた僕を気にせず、カインはウィスプに聞いた。

「おい。レムはどうした? ……無事か?」

 ウィスプはニコリと微笑んだ。

「レムさんでしたら元気ですよ。怪我はしてますけど頑丈ですから」

「……そうか。おい雑魚犬!」

 今度はリルを呼ぶ。

 リルはむっとして答える。

「なんですか?」

「お前この雑魚に負けたのか?」

 カインは倒れた僕を指差す。

 リルは口を尖らせ、渋々頷いた。

「……リルは雑魚ではありませんが、そういうことになります」

 リルは新しく付けた赤い首輪を触った。

 首輪にはジローと書かれている。

「ならこの糞雑魚を倒した俺がお前より強いことになるな」

「えっと……あれ? そうなのでしょうか?」

 リルは不思議そうに考え、よく分からなそうに首を傾げた。

「そういうことにしとけ」

 カインは次にフレアとしずくをそれぞれ睨んだ。

 二人共カインの怖い顔に怯みさえしない。

 フレアは頭の後ろで手を組み、しずくは腕を組んでいる。

 カインは舌打ちする。

「金のドラゴンに銀のグリフォンか。雑魚のくせに調子乗りやがって。倒さねえといけない奴ばっかだな……。まあいい。それよりこの犬、どうするか」

 カインは再びボロボロの服を着るリルを見つめた。

 どうする?

 それを聞いて僕はハッとした。

 そうだ。操られていたとは言え、リルは僕らの国の部隊を一つ壊滅させたんだった。

 もしこのまま連れて帰ったら敵と見なされて処刑されるかもしれない。

 いくら操られていたと言ってもその証拠があるわけじゃないし、下っ端の僕らがなにを言っても聞いてくれるはずがない。

 僕は体を起こし、リルを見つめた。

「ひ、人の姿になってれば大丈夫じゃないかな?」

「阿呆か。こんな情勢で見たことねえ女がほっつき歩けば目立つだろ。最悪しょっぴかれる」

「でもパートナーってことにすれば……。ああけど人の姿は本来の力を出し切れないから戦闘になれば元の姿にってこともあるのか……。訓練の時は良くてもそれ以外で誤魔化しがきかないってのはよくないね」

 例えばフレアなら偶然いたドラゴンが仲間になってくれたみたいにできるけど、黒のフェンリルは公国の敵として認定されてるだろうから見つかり次第戦闘になってしまう。

 そもそもとして命令違反をした僕が憲兵に戻れるかって問題はあるけど。

 そう言えば女神様も四体はまずいって言ってたな。

「かと言って野生に放せばまた捕まりかねねえしな。なんせこいつは雑魚だ」

 カインが言い放つとリルは頬を膨らませた。

 僕とカインは二人して悩んだ。

 するとリルが手を挙げる。

「その件ですが、お話しておくことがあります」

 そこまで言ってリルはモンスターの姿になった。

 それを見て僕らは目を丸くし、解決策を思いついた。

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