第57話

 気付くと僕の目の前には青空が広がっていた。

 足下はない。

 つまり、僕らは再び空中にいた。

「へ? ってうわあああああああああああああぁぁぁぁっっ! またああああぁぁっ!?」

 真っ逆さまに落ちていく僕とウィスプ。

 それを柔らかい感触がキャッチした。

 グリフォンの姿になったしずくだ。

 しずくは顔をしかめた。

「なにか犬臭いけどどこへ行ってたの?」

「め、女神様の世界です」

 ウィスプが答える。

「……ああそう。なんでわざわざあんな地獄みたいなところに? 思い出しただけでも虫酸が走るわ。あそこじゃ魔法も使えないし、元の姿にもなれないからあいつに使いっ走りさせられたもの。コンビニでレイトーショクヒンを買わされたり、コスプレをさせられてユリとか言う訳の分からないことをわたしとフレアに求めたりするし」

 しずくはげんなりとする。

 しずく達が嫌っていた理由が少しだけど分かった気がする。

 あの世界にはあまり長くいたくない。

 なんか僕も狙われてるっぽかったし……。

 僕はしずくに女神の首輪を見せた。

「女神様から貰ったんだ。これならあの子を助けられるかもしれない」

「女神の首輪……。なるほど。あの女が考えそうな力技ね。でもどうやってそれをあの子に付けるの? あなた、あの中に飛び込める?」

 そう言ってしずくは下を見る。

 山の山頂ではフレアとフェンリルが絶賛戦闘中だ。

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォッ!」

「うおおおおぉぉぉっ! テンション上がってきたあああぁぁぁっ!」

 攻防が速すぎて離れているのにどうなってるのか分からない。

 火花が散り、魔力がバチバチいっているのでぶつかり合っているらしい。

 時折当たれば死ぬ程の威力を誇る炎と魔力が投げ売りみたいに放たれている。

 接近すれば山を砕く攻撃が文字通り目も止まらぬ速さで繰り広げられていた。

 あれが町に降り注いだら大変なことになる。

「……いや、今のままじゃ無理だ。でも考えたんだ。操られているならその元を絶てばいいんじゃないかって」

「つまりあの男を殺すってこと?」

 しずくは懐疑的だ。

 僕はかぶりを振った。

「いや、あの人が死んだらカインの無事が保障されない。カインを取り戻す為にはあの人が必要なんだ。だから気絶させるとか、倒すとか。とにかく戦闘不能にさせるんだ。そしたらフェンリルも解放されると思うんだけど。どうかな?」

 僕の案にしずくは口角を上げた。

「村人の割には悪くないわね。でもわたしが行けばフレアを抑える役がいなくなるわよ? そしたら流れ弾で燃やされて死ぬかもしれないわね」

「うん。だからしずくにはあの二人を見ていて欲しいんだ。僕とウィスプでリアスを倒す。そしたら隙が生まれるはずだ。その時しずくはフェンリルの動きを封じて欲しい」

「そして女神の首輪をあの子に付ける、ってことね。いいわ。それで行きましょう。でもあいつを倒せるの?」

 一番の問題はそれだ。

 魔術を操り、おそらく体術にも優れたリアスを倒すのは簡単なことじゃない。

 最弱で村人の僕にそれができると思う人は少ないだろう。

 だけど、みんなを助けるにはやるしかない――

「……倒すさ」

 そうだ。相手がどんなに強くても僕はリアスを倒してカインを助けるんだ。

 僕は覚悟を決めてウィスプを見た。

「僕についてきてくれる?」

「は、はい! 頑張ります!」

 ウィスプは不安そうだったけど頷いてくれた。

 よかった。こんな時でも僕一人だったらなにもできない。

 でも、僕には仲間がいる。

 最弱の村人についてきてくれる頼れる仲間が。

 それから僕は考えていた作戦を二人に話し、再びダライアス山脈へと舞い戻った。

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