第48話
麓に降りた時には朝陽が山から顔を出そうとしていた。
ただでさえ疲れていた僕らは負傷兵を担ぎ、その上いつ起こるか分からない戦闘に備え、心身共に疲弊していた。
負傷兵を村の治療施設へ届けると、シーアが待っていて団長へ言った。
「もう少しでレネップから部隊が着くそうです。……ですが」
「救援隊を送ることを本国が許してくれない。そうだな?」
団長の問いにシーアは悲しそうに頷いた。
それを聞いてドミネクさんが大声をあげた。
「なぜだっ!? 生き残りがいたんだろう? ならまだ探せばいるかもしれない!」
「面子の問題でしょう。こんな辺境の憲兵が本国の軍人を助ける。それが知れれば当然問題になる。おそらくあなた達も自力で帰還したと報告されるはずです」
「馬鹿なっ! 仲間が助けを待ってるかもしれないんだぞ! そんな体裁を気にしてどうする!」
大声をあげるドミネクさんにシーアが一枚の紙を渡した。
「セントラルからの命令書です。レネップの憲兵は命令があるまで国境警備にあたれ。軍隊の救護は今編成している部隊に行わせると」
「ふざけるな! 一体いつになるんだっ! 仲間を見殺しにしろと言うのかっ!」
ドミネクさんは命令書を握り潰し、壁に投げつけた。
団長はしわくちゃになった命令書を拾い、胸ポケットに入れた。
「しかし、あなた達を壊滅させたあれを我々だけで対処するのは不可能です。現に、こちらも一人優秀な憲兵が犠牲になってる」
「…………え?」
僕とシーアの声が重なった。
慌ててシーアが僕らを見渡す。
でもここにカインはいない。
「カイン君とレム君は……?」
その問いに誰もが口をつぐんだ。
沈黙はなによりも雄弁だった。
「…………嘘でしょ?」
シーアが引きつった苦笑を浮かべる。
するとミミネが口を開いた。
「誰かが盾になってあれを抑えておかないといけなかったの。それをカイン君がやった。いや、カイン君だけができた。だからここにはいないって感じ」
「そ、そんな……。みんなで戦えばなんとかなったんじゃ――」
「シーアちゃんにそれを言う資格はないっしょ?」
ミミネが笑って小首を傾げた。
作戦に参加しなかったシーアは反論できずに俯いた。
「…………じゃあ、カイン君は…………」
「二階級特進ってやつじゃない?」
冗談めいて笑うミミネをシーアが睨む。
でもミミネの目に浮ぶ涙を見て、また俯いた。
重い空気が漂った。誰もこの空気を振り払うことができない。
ねっとりとまとわりついて身動きが取れなかった。
カインは本当に死んだんだろうか?
たしかに団長がそう思うのが無理ないほどフェンリルは強大だった。
この中であれに立ち向かえるとしたら……。
心がズキリと痛んだ。
同じ考えがぐるぐると回る。なのに、答えが出ない。
疲れていた。よく考えれば昨日から一睡もせずに山を登ったんだ。足は重くてだるかった。
岩で切った傷がズキズキと痛む。
「……誰かが行かないと………………」
気付くと僕は朦朧とした意識の中で自分の考えを口に出していた。
「……それなら僕だ……。だって僕は……約束したんだから…………」
最強の魔物使いになるって。
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