第47話

 僕は重大な間違いを犯したんじゃないのか?

 走ってから数分し、見える木々がまた高くなった時、僕はその気持ち悪さに我慢ができなくなった。

 なんで僕は逃げてるんだ?

 なんで僕が戦ってないんだ?

 力があるのに。

 フレアとしずくならあのフェンリルとだって互角に戦えるかもしれない。

 なのに、なんで僕がここにいてカインがあの場に残ってるんだ?

 疑問の答えは簡単だった。

 僕が弱いから。

 どんなに強力な力を拾ったとしても、拾った僕が弱いままなら意味がない。

 結局、それは今回みたいな極限の状況で露呈した。

 怖かった。

 死ぬと思った。

 早く家に帰りたかった。

 だからカインが盾になってくれた時、僕は一瞬ホッとしたんだ。

 カインは戦い、僕は逃げる。これが本来の立ち位置だと安堵したんだ。

 僕は足を止めた。

 するとウィスプが僕の腕を掴んで言った。

「今は止まっちゃだめです!」

「でも…………」

 反論しようとする僕の背中でロロイさんが苦しそうに唸った。

 そうだ。今戻ればこの人が助からないかもしれない。

 でもそしたらカインはどうなる?

「決められないのなら尚更だめね」

 後ろからやってきたしずくも冷たく言い放った。

 もっともな意見で僕はただ口をつぐむしかできなかった。

 俯いていると前から団長の声が聞こえた。

「前方にサカサマバッド多数! アルフ! 頼めるか?」

「……………え? あ、はい!」

 とっさのことで僕はよく分からずに返事をした。

 考えてみれば今戦えるのはフレアとしずくだけ。

 カーバンクルは怪我人を魔法で包んでるから戦う為には一度解除しなければならない。

 僕はサカサマで飛んでくる大きな人面コウモリを前に指示を出した。

「フレアはミミネ達を守って! しずくはその援護を!」

「おっけー♪」

「分かったわ」

 二人は颯爽と前に出て行く。

 そうだ。今この人達を助けられるのは僕しかないんだ。

 でも、それならカインは誰が助けてくれるんだろう?

 もやもやとした不安を抱えながらも、僕はただ目の前の敵を倒すことに必死だった。

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