第38話

 それから僕らは話し合い、再び畑へと戻った。

 するとマンドラゴラが『ごらぁーごらぁー』と騒ぎ出す。

 食べかけていた野菜をポイッと捨て、突っ込んでくる二体。

 フレアは僕の前に出てくると頭についた草を目にも止まらぬ速さで捕まえた。

「あたしはアルフを守ればいいんだよね?」

「うん。ウィスプ! 引き寄せて!」

「はい!」

 返事をしてウィスプが『ショック』を群れに放つ。魔力の弾がマンドラゴラの一体に当たった。

 ダメージはほとんどなさそうだけど、これでいい。

 怒ったマンドラゴラが一斉にウィスプを囲んだ。

『ごらぁー!』

「ひええええええぇぇっ!」

 狙われたウィスプ涙目になった。でもこれも僕の計算通りだった。

「しずく! 各個撃破!」

 するとしずくの声が空から聞こえる。

「動かないで」

「はいいぃぃぃ!」

 ウィスプが涙目で返事をするとマンドラゴラが空を見上げた。

 そこには銀の羽で飛ぶしずくが待っている。

 大空に巨大な魔方陣が広がった。

「動けば追うわ。『フェザーチェイサー』」

 突然銀色の羽がばらまかれた。その先は鋭く尖っている。

 それを見たマンドラゴラは一斉に避難行動に出た。

 だけどしずくの言う通り、『フェザーチェイサー』は動く者を追う攻撃だ。

 無数の羽がマンドラゴラを追って逃がさない。

 ザクザクと刺さり、ものの数秒で逃げ出したマンドラゴラ達は倒れた。

 無事なのは魔方陣の真ん中でガタガタと震えるウィスプだけだ。かわいそうに。涙で顔がぐちゃぐちゃになってる。

「いいですか? もう動いていいですか? それともダメですか?」

「いいわよ」

 しずくの許可を得てウィスプはようやく動き出した。

「怖かったですー……」

「よしよし」

 僕は泣きつくウィスプの頭を撫でてあげた。

 それを見てフレアが「いいなあ」と指をくわえる。

 倒れたマンドラゴラを見て僕は安堵の息を吐いた。

 どうやら完全に倒したらしい。これで今年は畑を守ることができるだろう。

 するとしずくが空から降りてくる。長い髪を払うと胸がたぷんと揺れた。

「最初にしては悪くなかったわ。指示はシンプルな方が聞きやすいし、なによりはっきり言えたじゃない」

「そうかな? できてたならよかったよ。よし、この調子で頑張ろう!」

 褒められた僕が喜んでフレアの頭を撫でていた時だ。

 僕らが来た方から大きな笛の音が聞こえた。

「あれは……、団長の笛だ。ってもう太陽があんなとこに! 午前中は終わりかー……。みんな、戻るよ。大丈夫。午後を頑張ればなんとかなる……って、ウィスプ? どうしたの?」

 さっきからウィスプは畑の横にある茂みを見つめている。

「……ウィスプ?」

 僕が首を傾げるとウィスプは震えながら茂みを指差した。

「あの……、見間違えかもしれませんけど、あれって人の腕じゃないでしょうか?」

「………………え?」

 慌てて目を凝らして見ると、確かに茂みの中から手の指と思われるものが飛び出していた。


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