第36話
おじいさんの言った通りだった。別の畑に行くとマンドラゴラの群れが野菜を掘り起こしてもぐもぐと食べている。
生意気にも美味しいところだけ食べて、それ以外のところはポイッと捨てていた。
「村の人達が作った野菜を……。許せない!」
頭に血が上った僕は先陣を切ってマンドラゴラ達に向っていった。
「こらあー! ダメだろ? 収穫する為に僕ら農民がどれだけ頑張ってきたと思ってるんだ? 僕が村人を代表して成敗してごぼふっ――」
『ごらぁー! ごらぁー!』
鳴き声をあげながらマンドラゴラは頭突きを放つ。
「ごはぁっ――――。ひいぃっ! すいません! やめてくださいいいいぃぃ!」
ボコボコにされた僕はどうにか謝って、三人の元に戻ってきた。
「だ、大丈夫ですか?」
ウィスプは慌てて駆けつけ、回復してくれる。
泣きじゃくる僕を見てフレアとしずくは呆れていた。
「やっぱり謝るのが好きなんだねー」
「アホの極みね」
フレアは楽しそうに笑い、しずくは絶対零度の声で告げる。
「ううぅぅ…………。ごめん……。農作物が襲われてるのを見るとつい……」
「村人ね」
「村人だねー」
ううぅ……。村人です。
悲しんでいるとウィスプが庇ってくれる。
「ダメですよ、二人とも。村人だって村人なりに頑張ってるんですから。そもそも村人がいなければ野菜だって食べられないんですよ? そしたらどう思いますか?」
「あたしはべつにいらないと思う」
「やっぱり不必要な存在だったと再確認するわ」
僕の村人ハートをナイフで抉り続ける二人。
涙目でズキズキ痛むお腹を押さえる僕の元にしずくがやって来て手をかざした。
「ほら。あなたがわたし達のリーダーなんでしょう? ならしっかりしなさい」
しずくの手に温かな魔力が生まれる。
それは僕の傷をあっという間に治してしまった。
回復魔法。それも見たことないような威力だ。
「すごい……。あ、ありがとう、しずく」
「またあなたはそうやって……」
しずくは小さく溜息をつくと腕を組んで僕を見下ろした。
「さあ、早く指示とやらを出したら? それともまた一人で倒しにいく? べつにそれでもいいわよ。例えあなたが変な性癖に目覚めたとしてもいくらでも治してあげるわ」
「……いや、これ以上は……。じゃあみんな、頼めるかな?」
「はーい!」
フレアが手を挙げる。その手の平にはまたも火の玉が生まれた。
「いや! だからダメだって! それじゃあ収穫できるはずの野菜まで焼けちゃうでしょ?」
「イモだし、ついでに焼き芋にしちゃおうかなって。ダメ?」
「それはちょっと美味しそうだけどダメ!」
それから僕らはまたマンドラゴラのいる畑に戻った。
マンドラゴラ達は僕を見ると食べていたホッコリイモをぽいっと捨てて『ごらぁー』と鳴いた。
どうやら怒ってるらしい。
例え怒っていても相手は植物系のモンスターだ。一体一体はそれほど強くない。
僕はみんなに指示を出し始めた。
「えっと、フレアはマンドラゴラ達をあれしてくれるかな?」
「あれってなに?」
「その、だから引きつけるとかさ?」
「よく分かんない」
フレアは首を傾げた。
僕は頭の中にあるプランを上手く言葉にできなかった。当然だと言えば当然だ。
普段の僕は指示を出す側じゃなく、聞く側だ。
模擬戦の時だって結局カインが言った通りに動いていただけだった。
「し、しずくはさっきの剣で牽制してほしいんだけど」
「威力はどれくらい? 範囲は?」
「え? えっと……。それはその……、目分量で……」
「なら畑全体に巨大な剣が降り注ぐわよ?」
「それはダメだよ!」
「だったらはっきりと言って」
「それは……、えっと……」
「あの、私はどうしたらいいですか?」
今度はウィスプが質問してくる。
「え? ごめん。ちょっと今忙しいからウィスプは待機してて!」
するとウィスプはずーんと沈んで背を向けた。
体育座りで地面に魔方陣を描きだす。
「そうですか……。そうですよね……。私は一生待機ですよね……。あ、お花咲いてるー」
ああ、いじけちゃった。言い方が悪かったかな。
「ごめん。そういう意味じゃないんだ。忙しかったら少し待っててっていう意味でばふっ!」
ウィスプをなだめる僕にやって来たマンドラゴラの頭突きが炸裂する。
もたもたしてる間に近づいて来てたみたいだ。
「やめっ! ちょっ……! すいません! やめてくださいいいいいぃぃ……! というかなんで僕だけなの? みんなも見てないで助けてよっ!」
「なにかこういうプレイを見せられている気がするのは気のせい?」
しずくは冷めた目線を向ける。
「気のせいだってごふぅっ!」
僕はまたしてもボコボコにされた。
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