第35話
村はずれの畑に行くと、今がちょうどホッコリイモの収穫時期だった。
ホッコリイモは焼くとほかほかになって甘みが強いイモだ。僕の畑でも育てていて、生命力が強いからたくさんできる。
僕らが到着するとちょうどイモを収穫しようとしていたおじいさんがマンドラゴラと戦っていた。
細い腕でクワを振りかぶり、マンドラゴラに向っていく。
「ワシの作ったイモを狙うとは良い度胸じゃっ! お前ら全部夕飯のおかずにしてごふっ!」
『ごらぁー』と可愛らしい鳴き声を挙げながらマンドラゴラがおじいさんに頭突きを放つ。
それがおじいさんのお腹にクリーンヒットした。
「ぐううぅ……。ワシがあと六十歳若ければ……」
その場でうずくまるおじいさん。
『ごらぁー』
それをマンドラゴラの群れが容赦なくボコボコにしていく。
「助けないと!」
「分かった!」
フレアが巨大な火球を手の平に作って持ち上げる。
それを見て僕は慌てて止めた。
「聞いてた? 助けるって言ったよね? それじゃ火葬になっちゃうよ」
「おじいさんだし、ついでにぇってことで。ダメ?」
「ダメっ! なんて無慈悲なの!」
数えてみるとマンドラゴラは八体もいる。しかも近くにはおじいさんだ。
フレアに行かせたらおじいさんごと蹴り飛ばしかねない。
……なら、
「しずく! 頼める?」
「嫌、と言っても『命令』されればするしかないのだからやるわよ」
そう言うとしずくは魔力を成形したくさんの短刀を作って宙に浮かべた。
「ちょっと! おじいさんに当てちゃダメだよ?」
「あなたは誰に言っているの?」
そう言うとしずくは一斉に短刀を放った。
マンドラゴラとおじいさんに短刀が降り注ぐ。
しばらく場が静寂に包まれた。
すると、マンドラゴラが一斉にコロンと横たわった。よく見ると全部の頭に短刀が突き刺さっている。
おじいさんはと言うと一本だけ残っていた髪の毛が切り落とされたのを除けば無傷だ。
「……すごい」
「当然」
唖然とする僕を横目にしずくは長い髪をさらりと払った。
さすがしずくだ。複雑なことも純度の高い魔力で造作もなくやってしまう。
うずくまっていたおじいさんは静寂を聞いて顔を上げた。
「……なんじゃ? なにが起こった? ああ! こいつら! よくも! よくも!」
おじいさんが倒れたマンドラゴラをポカポカ叩く。
「大丈夫ですか?」
「おお! お前達が助けてくれたのか? ほお、憲兵か。女ばっかりじゃのう」
駆け寄った僕を見ておじいさんが喜んだ。
するとウィスプがおじいさんに近づき、傷の手当てをしてあげる。
「これくらいならすぐに治りますからね」
「助かるわい。めんこいのー。お前さん、うちの孫に嫁がんか?」
「すいません。予約済ですので」
ウィスプが照れながらにっこりと微笑む。
え? ちょっとその話詳しく!
「そうか。まあええわい」
よくないって!
おじいさんは近くの石に腰掛けた。
「お前ら『金の首輪』を追ってるんじゃろ?」
聞いた事のない単語が持ち出される。
「金の首輪? なんですかそれは?」
「なんじゃ? 違うのか。金の首輪とは最近ダライアス山脈に住み着いたモンスターじゃよ。村の者が偶然姿を見たらしくてな。首に金の首輪を付けていたらしい。奴は月の見える夜に遠吠えをするんじゃ。あれを聞くと背筋が凍るわい」
おじいさんは思い出してぶるりと体を震わせた。
僕らは顔を見合わせた。そんなモンスターが現われたなんて知らされてない。
「僕達はマンドラゴラの駆除の為にここへ来たんです」
「そうかい。その割には少ないのお」
おじいさんは僕の後ろにいる三人を見て心許なそうにする。
「あはは……。みんなはもっと村から離れた場所に行ってます。そっちの方が数が多いので」
「なるほどの。マンドラゴラがいいならあっちの畑に行ってみい。結構な数がおったわい。それとあいつらは日陰を好んで自生する。探すならじめじめした場所を探すんじゃな」
それだけ言うとおじいさんは倒れたマンドラゴラを捕まえ、僕らは葉っぱの部分だけ貰った。
「じゃあの。帰ってこれを酢漬けにせんと。また来年この村に来たらわしの家に足を伸ばしなさい。そしたら旨いピクルスを食わしてやるわい」
「はい。楽しみにしてます」
僕が頷くとおじいさんは嬉しそうに笑い、家に帰っていった。
人の役に立てた僕は嬉しくってついつい口角が上がる。
するとしずくが尋ねた。
「随分のんびりしてるわね? まだ八枚しか集まってないわよ?」
「そうだった……。最下位なら地獄の特訓が待ってるんだ。急ごう!」
僕が向こうに見える畑を目指して走り出すと、やっぱり後ろからしずくの溜息が聞こえた。
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