第34話

 ダライアス山脈はサンタナ帝国との国境線の役割も持つ重要な場所だ。

 東西に延びた尾根はどこまでも続き、その麓には山から流れる川に沿って広大な森が広がっている。

 その森は女神の森と言われ、昔から湖には女神が住むと言う伝承が伝えられてきた。

 今回僕らが到着したのは女神の森とは少し離れた場所だ。傾斜になっていて辺りには大きな岩とたくさんの木が見える。

 山を登るほど木は減り、代わりに岩が増え、大きくなっていく。

 僕らが到着すると近くの村人が喜んでいた。

「ありがたい。このままじゃ収穫できず、全ての野菜をマンドラゴラに食べられるところだった」

「どうぞゆっくりしていってください」

 喜んで貰えるとこっちも嬉しい。

 それと同時に子供の頃見た憲兵隊の姿が思い出された。

 そう。僕はこうやって皆を守る憲兵達に憧れたんだ。

 そして今、その一員にいる。

 その事実が僕の顔をだらしなくさせた。

「なにニヤけてるの? 死ぬほど気持ち悪いわよ。病気なの?」

 僕を見たしずくが凍えるような視線を送る。

「いやー。僕も憲兵になったんだなーって実感が湧いて嬉しくてさー」

「そう。なにも成し遂げてないのに喜べるのは才能と言えるわね。さすが村人だわ」

 しずくは相変わらず厳しい。

 でもその通りだった。まだ僕は憲兵になっただけだ。重要なのはこれからだった。

 僕ら魔物使いは団長の指示で山の麓に集合した。

「これからマンドラゴラ討伐戦を始める。少しでも多くの個体を駆除することを求めたい。もし来年この村がマンドラゴラの群に襲われたらお前達の責任だと思え。倒したら頭の葉を引っこ抜くんだ。そうすればその個体は繁殖することができなくなる。午前と午後で葉の数を集計する。トップになった者には報奨金を出すからな。逆に最下位なら戻って夜まで特訓だ」

 それを聞いて魔物使い達は顔をしかめた。団長の特訓は厳しいと有名だからだ。励ましながらも限界まで追い込んでくる。

 結果として良い憲兵に育つんだけど、やっぱり苦しいのは好きじゃない。

 最下位にはなりたくない。僕らはみんなそう思った。

 だけどカインとしずくは更に上の目標を見据えていた。

「やるからにはトップ取るからな。お前らそのつもりでいろよ?」

 カインはシーアとミミネに発破を掛ける。

「報奨金とやらが出れば夜もお肉が食べられるんでしょう? なら狙わない手はないわね」

 それを聞いたカインがシーアを睨み付ける。

「雑魚は引っ込んでろ」

「あら、自己紹介かしら? ならその通りにしてほしいわ」

「ああっ!? てめえ誰に言ってんだ? ぶっ殺すぞ!」

 カインの後ろで炎が燃える。

 だが冷たい吹雪を背負うしずくには効かないみたいだ。

 二人を見て団長が喜んだ。

「うむ。気合い充分だな。では始め!」

 団長の掛け声で僕らは一斉に走り出した。ほとんどの仲間が林や茂みに向う。そういった場所にマンドラゴラは多く繁殖しているからだ。

 だけどそっちは村から離れた方だ。僕としてはまず村の近くにいるマンドラゴラを倒してあげたい。

「僕らは畑の方に向おう」

「そっちの方が多いの?」

 フレアが首を傾げる。

「ううん。植物系モンスターは自然が多い所を好むから数は少ないかも。でも僕としてはまず麓の村を助けてあげたいんだ。昔僕の畑も被害にあったからね。数が増えると駆除しようとしてもボコボコにされるんだ。あの時は土下座して許して貰ったよ」

「アルフって謝るの好きだねー」

「別に好きで謝ってるんじゃないよ! 謝るしかないから謝ってるんだよ! 弱者の術だよ!」

「ふうん。そういう趣味かと思ってたー」

 これ以上すごい性癖にされたら僕は外に出ただけで捕まっちゃうよ。

「どうでもいいわ。わたし、謝ったことないし」

 羨ましい人生を送るしずくは畑の方へと歩き出した。

「あなたが行けと言うなら行きましょう。さっさと終わらせてもっと多い所に行けばいいわ」

「本当? ありがとう」

 僕が喜ぶとしずくは呆れたように嘆息した。

「あなたって本当……。まあいいわ」

 そのまま歩き続けるしずくに僕は首を傾げた。

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