第32話

 初勝利から一週間が経った今日。

 僕は訓練所の食堂で昼食を食べていた。

 するとやって来た憲兵達が僕に話しかけてくる。

「よおロリコン。お疲れー」

「あ、ロリコンじゃん。最近頑張ってんな」

「ロリコンもAランチ食ってるのか。やっぱり小さい方が好きなんだ」

「ちょっと今この子のこと見てたでしょ? やめてよね。小さい子はみんな怯えてるんだから」

 男子達からはからかわれ、女子達からは疎まれるこの生活も随分慣れてきた。

 僕の横にはウィスプが、前にはフレアとしずくが座って昼食を食べている。

 ウィスプは僕と同じAランチ。前の二人はステーキだ。

 それも一枚じゃない。もう十枚に増えている。

 増えてると言うのは……。

「しずくさん! よければ今日訓練が終わったら町に出かけませんか?」

「いや、俺と一緒に花畑を見に行きましょう」

「わ、わたし……、しずくさんに憧れてて。是非ともお姉様と呼ばせて下さい!」

 昼休みにしずくの周りに群がる男子達(たまに女子)を見るのも慣れた。

 しずくに話しかける時はステーキをテーブルに置く。これが暗黙の了解となっている。

 しずくは優雅にステーキをナイフで切り、口に運び、口をナプキンで拭いた。

「考えておくわ」

 いつもこう答えるけどしずくが誰かとどこかへ行ったりすることは今のところなかった。

 にも関わらず人にもモンスターにもしずくは人気だ。

 その容姿を見ればそれもそうかと納得できる。

 すらっとしているのに胸は思わず目を引くほど大きく、綺麗な銀髪に透き通るような肌は美しさを凝縮した人形みたいだ。

 フレアも可愛いけどまだお子様だし、ウィスプは大人しい。

 二人に比べるとしずくの容姿はあまりにも悩ましかった。

 男達の視線を一身に受けてるにも関わらず、気負った振る舞いもしないので女子からもお姉様キャラとして好かれている。

「しずくと一緒にいるといつもご飯が食べられるから好きー」

 フレアはしずくが貰ったステーキをなんのお構いもなしに食べていた。

 それを後ろで眺めている男達(たまに女子)は、

「うわー。今日はあっちの子だったかー」

「しずくさんが俺のステーキを食べてくれた。今日はついてるぜ!」

 なんて様々なリアクションを取ってる。

 あまつさえ賭け始める人まで現われ、僕達が座るテーブルの周りはいつも賑やかだった。

「毎日すごいですね……」

 ウィスプが苦笑いを浮かべる。

「そうだね……。でも食費が浮いて助かってるよ」

 僕は気持ち良いほど食べる二人を眺めながらハーブティーを飲んだ。

 ステーキがみるみる間に消えていく。

 あれを全部買っていたら僕が貰っている給料じゃ到底足りない。

 今の内にいっぱい食べてもらって夕飯を減らしてもらわないと。

「あ、あの……、アルフ様?」

 ウィスプが頬を赤くして僕に尋ねた。

「うん? なに?」

「や、やっぱり大きい方が好きですか? それとも小さい方が? 私、普通くらいなので」

 そう言って自分の胸を見るウィスプに僕は思わず咳き込んでしまった。

 汚れた口を拭きながらなんとか作り笑いを浮かべる。

「え……、えっと……。僕は別に大きいとか小さいとかは気にしないかなー……」

「……でも、アルフ様がベットの下に隠してる本に載っている人はみんな大きいですよね?」

 なんでウィスプにまで僕の秘蔵コレクションがバレテるんだ? 

 まさか……!

「あ、ごめん。今朝トイレ行った時に流れで言っちゃった」

 フレアは小さな口をステーキでいっぱいにしながら悪びれることなく告白する。

 どんな流れがあったの? 

 どうせ寝ぼけて言ったんでしょ?

 それを聞いて辺りがざわつき出す。

「おい、どういうことだ? あいつってロリコンなんじゃねえのか?」

「巨乳が好きってことはしずくさんも狙われてるってことか? 許せねえ。細切れにしてぇ」

「みんな早計よ! つまり胸が大きいロリが好きってことじゃない? ロリ巨乳って奴よ!」

 ああー。なるほどーと皆は納得した。

 何もしてないのにフレアのせいで僕の性癖がどんどんアップグレードしていく。

「わ、私……、どちらの要素も持ってません…………」

 ウィスプはどんより沈んでいじけてるし。

 慌てた僕はフォローしようと考えがまとまる前に口に出す。

「だ。大丈夫だって! 僕はなんでもイケるから!」

 この台詞で喜んだのはウィスプだけだった。

「本当ですか?」と顔を明るくする。

 だけど周りは一気にざわつき始めた。

「聞いたかよ今の? つまりロリコンでもあるってことだよな?」

「あいつやっぱりしずくさんを……。許せねえ。乱切りにしてぇ」

「もしお姉様に手を出したら許さないわ。埋め殺してやる……」

「なんでもイケるだって? ははっ! そそるぜ」

 僕に注がれる侮蔑と殺気の視線。

 ああ……、穴があったら入りたい。

 こんなことならまだ村人のままでよかった。

「うう……。誤解だ。誤解なんだ……」

 耳を塞いぐ僕にしずくは冷たい視線を送った。

「くだらない雑音に惑わされるからあなたは生ゴミ以下だと言われるのよ」

 多分そんな罵倒をされたのはこれが初めてだと思う。

 それでもしずくの言う通り僕には自信がなかった。

 例え最強のドラゴンと最強のグリフォンがパートナーになったとしても、僕は僕のままで変わらない。

 僕は大きな溜息をついた。

 もっと強くなりたい。

 でもそれは簡単じゃなかった。

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