場外訓練は大変ですか? はい、大変です。

第31話

     *


 それは極秘の任務だった。

 ロナ公国の東にあるエスト地区。

 レネップ町、マズーロ村が所属するその田舎地区を目指し、セントラルの衛兵達が国境沿いの山をなぞって歩みを進めていた。

 彼らが本国から託された任務は国境沿いにサンタナ帝国へ侵攻し、新たな拠点を作ることだ。

 守りから攻めの転換を謀る。

 これがおおまかな侵攻意義だが、昨今の小競り合いに本腰を入れたセントラルの政治家達がこれからある選挙を見据えて手柄を作ることが真の目的であった。

 だが中身がどうあれ任務があればそれに従うのが憲兵であり、セントラルだけが持つ事を許された軍隊に身を置く軍人である。

 騎兵中隊が二つに魔術師中隊が一つ。そして魔物使いが五パーティーで十五人。

 侵攻の規模としては大きいとは言えないが、誰もがセントラルで輝かしい結果を残した精鋭揃いだった。

 それを証明するが如く彼らが付ける銀の鎧は一様に王家の紋章が掘られている。

 エリートである彼らの誰もが任務の成功を信じて疑わなかった。

 任務開始から二週間が過ぎ、レネップ町に面し、女神の森を含むダライアス山脈に足を踏み入れた侵攻部隊が山と山の間、山峡を進んだ。

 あと少しで国境を越える。

 その時だった。

 大きなな岩がひしめく峠を進軍する彼らの前に、見た事もない巨大な魔物が現われた。

 闇を思わせる漆黒の体毛に月光と見紛うような白い牙。

 そして煌めく金色の首輪。

 それが天高く咆哮するのを見た時、エリートである衛兵達は自らの未来がそう長くないことを理解した。

 その日、闇は血で染まった。

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