第28話

 ウィスプはさっきから端っこで体育座りをしていじけていた。

「最初から無理だったんです……。ウィスプがなにかしようだなんて……。あはは……。所詮私は浮いてるしか能がない弱弱ウィスプちゃんですよー……」

「まあまあ、元気だしてよ。誰だって最初はできないって」

 僕は涙目で落ち込むウィスプの背中を撫でて上げる。

 するとカインが僕をどかっと蹴った。

「おいアルフ。そいつ森に捨ててこい」

「ちょっと! さすがにそれは言い過ぎだって!」

 抗議する僕だけど、カインの目は本気だった。

 僕の胸ぐらを掴んで持ち上げる。

「言い過ぎじゃねえよ。さっきのが本番だったら俺達全員がやられてたんだぞ。お前にその責任が取れんのかよ?」

「そ、それは……」

 カインの言ってることは最もだった。団長はこれが実戦のつもりでやれと言っていた。

 なのに、僕はウィスプをしっかりとコントロールできなかった。

 負けたのは僕のせいだ。僕は顔を逸らして黙るしかなかった。

 そこへシーアが苦笑を浮かべてやって来た。

「まあまあ。最初だったし、本番でこうならない為の練習でしょ?」

「練習で出来ねえことは本番でも出来ねえよ」

「うぅ……。ごもっともなことを言うね。まあでも最初なんだし、ね? 大目に見るってことで。アルフ君も動き方とかちょっとは分かったでしょ?」

 そう言うとシーアは近くにあった枝を拾って地面に図を描きだした。

「今回の模擬戦は魔物使いのパーティー同士が鉢合わせたのを想定してるんだ。あたし達魔物使いは常にモンスターの後ろで指示を出す。モンスターはパートナーを守りながら、相手のモンスター、またはそのパートナーを倒さないといけないってわけ。パーティーは大体三体の魔物で構成されてる。それはこの数が小隊として最低限の役割を持てる最小数だから。攻撃、防御、サポート。これで三体。だけどこれは最適解じゃない。あっちみたいにサーベルタイガーとバジリスクのツーアタッカーだってあり得るの。だからその時その時で対処しないといけないんだけど……」

 シーアが端っこでいじけるウィスプに苦笑いを向ける。

「本当ならレム君のサポートをしながら攻撃するのがウィスプちゃんの役目ね。でも最初からそんな複雑なこと難しいよね」

「甘やかすなボケ。誰もサポートなんて頼んでねえよ。邪魔するなって言ってるだけだ。二体くらいレムがどうにかする」

 カインは後ろにいる長身の青年をポンと叩いた。

 長い髪の間から片目を出したレム君は静かにコクンと頷いた。

「…………敵が強化されなければね。まあ済んだことはいいや。奥の手がないわけじゃないし」

 レム君はフレアの方をゆっくりと向いた。

「……あの子はやらないの?」

「あたし? はいはーい! やりまーす!」

 フレアは指名されて嬉しそうだ。手を挙げてぴょんぴょん跳ねている。

「い、いや……。フレアは、その……。なんて言うか……」

 嫌な予感がした僕はどうにかフレアを出さない言い訳を考えた。

 だけどそれを言う前にカインが命じる。

「サラマンダーか……。確かにそいつがバジリスクを見てくれたらパワーで有利なこっちが押し切れるな。よし。次はそいつを出せ。糞ウィスプよりマシだ」

 ウィスプの頭にがんっと見えない重しがぶつかる。

 僕は困っていた。フレアを出して大丈夫なのかな?

「でも……」

「お前は分かってないかも知れないけど模擬戦の結果如何で隊の序列が決まるんだよ! 俺らは最前線でやりたいんだ。足引っ張るなって言っただろ! この雑魚!」

 そこに団長が出てきてカインに尋ねた。

「どうする? まだいけるなら再戦するか?」

「うす。もちろんです」

 カインは即答した。

 団長は頷く。

「なら準備しろ。アルフ。適材適所だ。三体もいるんだから使い分けられるようになるんだぞ」

「は、はい!」

 頷く僕にカインが囁く。

「あんま調子乗んなよ?」

 カインは明らかに苛立っていた。

 僕はビビリながら「う、うん……」と答える。

 さっきと同じように持ち場についた僕ら。

 違うのはゴーレムの横にいるのがフレアだってことだ。

 機嫌の悪いカインがフレアに声をあげる。

「おいこらチビ。お前はバジリスクを抑えろ。いいな? あと早く元の姿になれ」

「知らん。あたしは好きなことして生きていく!」

「ああ?」

 憤るカインにフレアがニッと笑うと、戦いは始まった。

 嫌な予感がする……。

「ちょ、ちょっとフレア! まずは様子を見て大人しく……してって…………」

 僕らはただ唖然として事の成り行きを眺めるしかなかった。

 素早く飛び出したフレアがサーベルタイガーを蹴り飛ばすとそれが後ろにいたバジリスクを巻き込んだ。

 あまりに突然のことでウィンドフェアリーが驚いているとそこへ巨大な炎が襲いかかる。

 一瞬のことで避けられなかったフェアリーは炎が過ぎた後、丸焦げになってぽとりと落ちた。

 そしてがら空きになったフラッグをフレアが三本とも掻っ攫う。

 そのあまりの早さに僕は一部始終を見ていたのに、頭が付いてこなかった。

「はい! あたしの勝ちぃー!」

 フレアが嬉しそうにフラッグを掲げた。

 この間僅かに四秒だ。

 いくらフレアが最強のドラゴンだと言っても、力が抑制された人の姿でここまで圧倒するなんて。

 僕らはただ呆然とするしかなかった。

「………………は?」

 カインが口をぽかんと開けている。

 カインだけじゃない。周りの魔物使い達もなにが起きたか理解できてない。

 今がチャンスだ。

 僕は慌ててフレアの元へ駆け寄り、抱っこして遠くへ連れ出した。

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