第27話

 訓練場には座学を学ぶ為の校舎。

 主に基礎体力を鍛える為の運動場。

 そして模擬戦をやる為の疑似フィールドがあるそうだ。

 僕らの向う先はそのフィールドだった。

 団長に連れられて訓練場の奥まで行くと、そこは岩や木が持ち込まれ、実戦を想定したと思われるフィールドが広がっていた。

 なぜかフィールドは横に伸びていてその両端に三本ずつ旗が立っている。

 軽い準備運動をしてから僕らはフィールドの中心に集まった。

 するとそこにはもう一チームが既に待機していた。

「途中の参加のアルフには悪いが、我々には時間がない。いつサンタナが攻めてくるか分からないからな。なのでさっそく実戦形式の訓練を始めさせてもらう。アルフはやりながら慣れてくれ」

「は、はい!」

 僕はもう憲兵なんだ。命令は絶対に遵守しないといけない。

 気を引き締めて背筋を伸ばすと団長が説明してくれた。

 模擬戦のルールはこうだ。

 今から僕らは三対三で戦う。勝利条件は二つ。

 一つ、相手のモンスターを全て戦闘不能にすること。

 もう一つは各陣営にある三本あるフラッグを奪うことだ。

 フラッグは魔物の後方にある為、それらが全て取られるということは相当攻め込まれているということになる。

 つまり直接敵を倒さなくても戦況が大幅有利になれば勝ちが認められるんだ。

 魔物使いはフィールドの外に立ち、中のモンスターに指示を出す。ということは、

「分かっていると思うがあのフラッグはお前達だ。各自、そのつもりで防衛に当たれ」

 団長の口調が真剣になる。

 そう。強靱なモンスターを使役する魔物使い。

 その最大の弱点はなんであろう人だ。

「実戦になれば真っ先に狙われるのがパートナーだ。自らを守りながら尚かつ攻める。これは簡単ではない。訓練でできないことは実戦でもできない。本番だと思い気を引き締めろ」

 団長の目は普段より厳しい。

 僕は緊張してゴクリと唾を飲む。

 相手は男二人、女一人のパーティーだ。

 モンスターはバジリスク。ウインドフェアリー。サーベルタイガーだ。

 バジリスクは攻撃魔法が得意な小さなトカゲ。

 ウインドフェアリーは様々な補助魔法が使える緑の妖精。

 サーベルタイガーはサーベルを持った二本足で立つ屈強な大虎だ。

 僕はなにも分からないまま、とりあえずカインに言われた通りウィスプをメタルゴーレムとマジックスライムの間に配置した。

「えっと……。僕はウィスプになんて指示すればいいの?」

「んなもん自分で考えろ」

 魔物使いが指示を出すエリアでカインは僕をギロリと睨んだ。

 それが分からないから聞いたのに……。

 すると見かねたシーアが僕に声をかけてくれた。

「ウィスプちゃんが使える魔法ってなにがあるの?」

「えっと……。『ショック』『ナ・オール』『パワプラス』『イリュージョン』かな」

 僕は指を折って数えた。どれも初期魔法ばかりでウィスプは少し恥ずかしそうだ。

「なら味方の攻撃力を上げる『パワプラス』をメタルゴーレムにかけながら、隙を見て『ショック』で攻撃したり『ナ・オール』で回復したりしてみて。後ろのことは気にしなくていいからとにかく前をお願い。いい?」

「う、うん……。やってみるよ」

 緊張する僕の後ろでフレアがさわぐ。

「あーたーしーもーやーりーたーいぃー!」

「あ、あとでね。今はちょっと慣れてからってことで」

 フレアはほっぺたをぷっくり膨らませて不満そうだ。

「しずくも待ってて」

「わたしはこんなくだらないことに参加するつもりもないから気にしないで。弱い者虐めって嫌いなの」

 しずくは冷めた目をして腕を組んだまま壁にもたれた。

 ならもう少し僕にも手加減してほしいな……。

 僕らは互いに向かい合い、集中した。

「始め!」

 団長の掛け声と共に模擬戦が始まった。

 カインが叫ぶ。

「シーア! 二体しかいないと思えよ。数じゃ負けてんだから押してくぞ!」

「そういう言い方って好きじゃないなぁ。リーダーなんだからちゃんと引っ張ってよ」

 シーアは優しいのか庇ってくれるけど、正直どうしたらいいかすら分からない僕は見ることに徹しようと考えてた。

 フィールドは五つの区画で区切られている。

 フラッグのある後方地帯が一つずつ。その前にモンスター達が配置される自陣が一つずつ。そして一番広い真ん中のエリアが一つだ。

 どうやら主戦場は真ん中のバトルフィールドらしい。

 カインのメタルゴーレムが真っ先に移動していく。

 シーアのマジックスライムがぴょんぴょん跳ねながらそれを追う。

「えっとウィスプもゴーレムについていくんだ」

「は、はい!」

 ウィスプはぷかぷかと浮きながらメタルゴーレムのあとを追った。

 ウィスプがバトルフィールドに着くと、早速戦いが繰り広げられていた。

 戦ってるのはカインのメタルゴーレムと敵のサーベルタイガー、バジリスクのコンビだ。

 巨大なゴーレムに対し、サーベルタイガーが魔力を纏ったサーベルで攻撃する。

 ゴーレムはそれを腕で受け止める間に、バジリスクが魔力の固まりを口から放った。

 バジリスクの攻撃はゴーレムに直撃し、煙が上がった。

 それを見てサーベルタイガーのパートナーである男が喜んだ。

「よし! 今の内に攻め込むぞ!」

 サーベルタイガーは頷いて、前に走り出そうとする。

 しかし、煙の中から伸びてきたゴーレムの腕がそれを阻んだ。はじき飛ばされたサーベルタイガーが岩に背中を打ち付ける。

 煙の中で真っ赤な瞳がギラリと光った。出てきたゴーレムは僅かに傷がついただけだ。

「てめえら。舐めてんじゃねえよ」

 カインが告げるとゴーレムの腕に刻まれた赤いライン光り、そこからビームが放たれた。

 狙われたバジリスクは慌てて逃げ出すと爆風が巻き起こった。

「すごい……」

 あまりの強さに僕は感嘆した。一体で二体のモンスターと渡り合ってる。

「そっかな?」

「普通じゃない?」

 フレアとしずくは退屈そうに首を傾げる。

 シーアのマジックスライムは相手が扱うウィンドフェアリーと魔法で牽制し合っていた。

 魔力を凝縮した弾を飛ばす『ショック』の上級魔法である『ショックウェーブ』と風の刃を飛ばす『ウィンドブラスト』がぶつかり相殺される。

 突風が起き、僕は思わず身を反らせる。

 その光景を見て僕は慌てた。

 ウィスプはもっと慌ててた。木陰で隠れてぷるぷると震えている。

「ぼ、僕らもなにかしなきゃ」

「え? で、でもなにしたらいいんですか?」

 涙目のウィスプはかわいそうだけど、このままじゃ本当に足手纏いだ。

「えっと……、攻撃? いや回復? ……そうだ。強化だ! 『パワプラス』でメタルゴーレムを援護しよう!」

「わ、分かりました!」

 そう言ってウィスプは小さな赤い魔方陣を発動させる。そこから出た赤い弾。それは当てた相手を強化する魔法だった。

「えい!」

 ウィスプが『パワプラス』を戦闘中のメタルゴーレムに放つ。

 これでメタルゴーレムの攻撃力は一定時間アップする。はずだった。

「……あ」

 あろうことかウィスプが放った『パワプラス』は敵であるサーベルタイガーに当たってしまった。

 持っていたサーベルが大きくなり、サーベルタイガーが強化されてしまう。

「はうっ! すいません!」

 ウィスプは謝るが、時既に遅しだ。

 さっきまで互角だったバジリスクとサーベルタイガーのコンビが一気にメタルゴーレムを押し出す。サーベルタイガーの攻撃力が上がったせいで、ゴーレムが受けきれなくなったからだ。

「おい! てめえ糞アルフ! 足手纏いならともかく敵になるってどういうことだ! この最弱村人雑魚野郎っ!」

 当然の如くカインが激昂した。

「ご、ごめん! ウィスプ! とにかく攻撃しよう。少しでも押し返さないと」

 だけどウィスプは完全に気が動転していた。

「あわわわわわわわわわわわわ!」

 慌てふためきながら『ショック』をばらまく。それは味方のマジックスライムにも当たってしまう。

「あた」

 マジックスライムの目がバッテンになる。

「ちょっと! ちゃんとしてよ!」

 シーアが注意するが、その隙にマジックスライムが相手の攻撃を受けてしまう。

「おい糞アルフ! 雑魚ウィスプくらいしっかり制御しろ!」

「あわわわわわわわわわわわわ!」

 僕もウィスプも完全に面食らっていた。

 頭の中が真っ白でなにをしたらいいのか分からない。

 その後、結局僕らは体勢を立て直せず、全てのフラッグを取られてしまった。

 初めての模擬戦は僕らのせいでものの見事な敗北で終わった。

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