第26話
訓練所についた僕らは門番の人に訝しまれながら中に入ると、団長室に呼ばれた。
団長は僕の姿を見て怪訝な顔をした。
「ん? 袖はどうした?」
「……忘れました」
「そうか。次からは気をつけるように……ってなるか! なんだ袖を忘れるって!」
「すいません……」
配属早々怒られてしまった。
僕は明日までに取り付けてくると約束し、説明を受けた。
憲兵には三つの部隊がある。
最前線に立ち、最も苛烈に戦う騎士部隊。
魔法を使っての後方支援に従事する魔術師部隊。
そして僕らが配属された魔物使い部隊だ。
魔物使い部隊は状況を見極め、最前列から後方支援まで様々な役割を求められる遊撃隊とも言える部隊だ。
元々の地位は低かったけど、昨今の戦争でその力が見直され、今ではロナ公国以外でも大きく組織されることが増えてきた。
それぞれに団長がいて、部隊を率いている。
魔物使いの団長はデリンジャーさんだ。
緊張した僕が書いてくるように言われた用紙を渡すと団長は訝しんだ。
「ん? パートナーの欄がウィスプと他二体となってるが、具体的な名称はなんだ?」
「え、えっと……」
僕は後ろにいるフレアとしずくをちらっと見る。
まさか金のドラゴンと銀のグリフォンとは言えない。
人が使役できるモンスターは限られている。モンスターと契りを結ぶには互いの信頼関係が必要だ。
最強ランクのSであるドラゴンとグリフォンと村人が契りを結びましたなんてことは誰も信じてくれないだろうし、なにより変なことに利用されるのが嫌だった。
ちなみにウィスプは最低ランクのGだ。
僕は少し考えてから答えた。
「その……、サラマンダーとキメラです。諸事情の為、二人には常にモンスターの姿でいてもらおうと思ってます」
「本当は違うのに」
「そんな下位種と同列なんて屈辱だわ」
愚痴る二人に僕はしーっと人差し指を立てる。
一方で団長は納得してくれていた。
「素早く攻撃力の高いサラマンダーに魔力を扱うことに長けるキメラ。そして微力だがサポートのできるウィスプが。ふむ。バランスの取れたいいパーティーじゃないか」
団長はえらく感心していた。
「あ、ありがとうございます。それで、僕らはどうしたら?」
「魔物使いの訓練に参加してもらう。まずは互いに顔見せだ。誰がどのモンスターを使役してるか把握しておかないとな」
先を行く団長が足を止めた。
するとそこには二人の憲兵と二体のモンスターがいた。
「魔物使いは通常三バディ一チームとして動く。アルフ。君が組むチームは彼らだ」
すると一人の女の子が前に出てきた。女子用のスカートを履き、ポニーテールが跳ねている。
「あたしはシーア。よろしくね。パートナーはマジックスライムのマーちゃんです」
シーアの右肩にはマジカルハットをかぶった青いスライムがいた。スライムの中でも中位種に位置する魔法特化型のモンスターだ。
マーちゃんは人の姿になった。小柄な美少女は大きな帽子を深く被った。帽子に青色のおかっぱの下では自信なさげな目が動く。
「あ、あの……。えっと……。よろしくです……」
そう言うと小柄なマーちゃんは恥ずかしそうにシーアの後ろに隠れてしまった。
次に見たことのある目つきの悪い青年が僕を睨んだ。
「カイン・ネロ・アルバレスだ。初めまして」
「は、初めまして……」
僕が苦笑すると、カインの後ろで大きな岩の固まりが動いた。ゴーレムだ。
普通のゴーレムとは違い、黒光りした固そうな岩で構築されている。頭が天井に付きそうな程大きくて、僕は少し圧倒された。
カインがゴーレムをこつんと叩いた。
「パートナーはメタルゴーレムだ」
するとメタルゴーレムが人の姿になる。背の高い目つきの悪い静かな男だ。
片目が髪で隠れていて、見えている方の目が僕を見下ろしている。
「…………ども」
メタルゴーレムは素っ気なく挨拶した。
僕が会釈するとカインが近寄り呟いた。
「おいアルフ。俺らの足引っ張んなよ」
「う、うん……頑張るよ」
「あとなんで袖ねえんだ? 舐めてんのか?」
「あはは……。これには事情が……」
二組の顔見せが終わると団長が僕らに紹介を促した。
「さあアルフ。今度は君達の番だ」
「は、はい! 僕はアルフ・フォード。パートナーは――――」
「ウィスプだろ。もういいよ。知ってるから」
カインは僕の紹介を遮った。さっきは初めましてって言ったくせに。
カインはフレアとしずくの順に見る。
「そっちのチビがサラマンダーで白いのがキメラだろ。ま、アルフにしては出来すぎだけど、どっちも原種だ。どうせ大したことない。お前らの仕事は俺達のサポートだ。俺が前衛。シーアが後衛だから、お前らはその間で動いて補助しろ。ま、必要ないと思うけどな」
カインの言葉にしずくの眉がぴくりと動いた。
僕は苦笑するだけだ。
「え~! あたしも戦いたいよー」
フレアが不満そうに頬を膨らませる。
「必要ねえ。間に合ってる」
カインは腕を組んで軽くあしらった。
フレアは益々むっとして羨ましそうにメタルゴーレムを見つめた。
見つめられたメタルゴーレムは少し不思議そうにしたあと、一歩だけ後退った。
まるで本能でなにかを感じ取ったみたいだ。
それを見てカインが首を傾げた。
「……どうした? レム」
「…………いや、べつに」
カインは怪しむが、レム君が否定した。
挨拶が終わるのを見ると団長が口を開く。
「それじゃあさっそく訓練といこうか」
団長は魔物使い達が訓練する棟の奥へと歩いていき、僕らもその後ろをぞろぞろとついていった。
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