憲兵ってなにをするか知ってますか? いいえ、知りません

第25話

 翌日。

 僕らの小屋は朝から大忙しだった。

「あ、お弁当っているんでしたっけ?」

 エプロン姿のウィスプが朝ご飯の用意をしながら尋ねる。

「ううん。昼食は訓練所で出るみたい」

「それは助かりますね。最近食費が前の十倍に増えましたから」

 ウィスプが呆れた顔でフレアとしずくに視線を送る。

 二人の主食は肉なので今日も朝からステーキだ。

「これ以上食費が増えたら私は夜の町に出稼ぎへ出かけなければなりませんでした」

 ウィスプはホッとして胸に手を当てる。

 そ、そこまで? 本当に憲兵になれてよかったと僕は安堵の息を吐いた。

 それから僕は食事を終えて憲兵の服に着替えた。

 新品の制服を食事で汚すのが嫌だったからこのタイミングだ。

「ど、どうかな?」

 僕はウィスプに尋ねる。

「ステキですよ。あ、襟が。ちょっとじっとしててくださいね」

 ウィスプが片方だけ立った襟を直してくれた。良い匂いがするし、服の間から谷間が見えた。

 なんか新婚生活みたいでくすぐったいな。

 ああ、いつか僕も――――

「あ。あたしもやってあげるね」

 ウィスプを見て面白がったフレアもやって来た。

 悪い予感しかしない。

「い、いいよ……」

「遠慮しない遠慮しない。ほら、肩に糸くずがついてるよー。取ってあげるね。ほい!」

 フレアが僕へ両手を伸ばすとビリリっという音が両肩から聞こえた。

 そこを見ると……。

「……え? ってえええええええええぇぇぇぇッッ! 袖ええええぇぇぇぇっ! なんで袖取っちゃうの? どうすんの? どうすんのこれっ!?」

「でもあたしとお揃いだよ?」

 フレアはそう言って嬉しそうに剥き出しの肩を見せる。

 うん。だから?

「フレア! 『おすわり!』」

 僕が叫ぶとフレアはぺたんと正座をした。

 さすが女神様の首輪だ。最強のドラゴンが意のままに操れる。

 だけどだからこそ僕はあまりこの力を使いたくなかった。なんだか主人と奴隷みたいな気がするからだ。

 フレアはむーっと頬を膨らませて僕を睨む。

 僕はそれに負けずに注意した。

「ダメでしょこんなことしたら! 今日が初出勤なんだよ? なのに袖がなかったらみんなどう思うと思う?」

「格好良いから流行ると思う」

「そんなファッションリーダーみたいなことにはならないよ! 大体制服の改造なんて規則違反なんだ。下手したら入隊後即除籍だよ!」

「あ。この袖を腕につけて火の玉撃ったら砲撃みたいで格好良くない?」

「どんな判断なのっ!? そんなことよりちゃんと話を聞いてよ!」

 怒る僕をウィスプがなだめる。

「まあまあアルフ様。早く準備しないと遅刻しちゃいますよ。ほら、フレアちゃんも反省してますから」

「しゃきーん! フレアバスター! 当たった相手は死ぬ!」

 フレアは僕の袖を右手につけてこっちへ向けた。

 どこが? ていうか効果だけ事実なのが怖いよ。

 結局僕は裾がないまま訓練所に行くことになった。

 初日の朝から酷い目に遭った。

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