第20話

 翌日からも訓練は続いた。

 フレアは草原に怨みでもあるのかってくらいテンションが高い。

「よ~し! びしばしいくよー♪」

「うひゃあああああああぁぁぁぁぁぁっっ! 死ぬうううぅぅぅっ!」

 まずはストレッチとして炎の弾と魔力の剣に襲われる。

 振り向いた瞬間死ぬことが分かる熱と風切り音が凄まじいほど伝わった。

「あと十個はいけるでしょ?」

「無理無理! もう絶対無理だって!」

 それからしずくが僕の腕の中に魔力で浮かした岩を積んでいく。

 大きめの土嚢くらいある岩の下では僕の足が生まれたてのフラワーバンビみたいにぷるぷるしている。

 そこへ容赦なく岩が積まれていった。

「ほら! 今のは避けられたって!」

「避けたよ! でも風圧で吹き飛ばされたんだよ!」

 そしてフレアと格技の訓練だ。

 フレアの拳も蹴りもほとんど見えない速度だ。音が遅れてやってくる。

 なんとか気配を読んで避けても、四肢の動きに連動して発生する突風ではじき飛ばされた。

 だけど少しずつ慣れてきたのか、受けるダメージは減ってきた。

 訓練している間ウィスプは僕が怪我をしないかハラハラしながら見ていた。

 怪我を負えばすぐに魔法で治療してくれる。

 ウィスプは回復魔法の中では初期魔法である『ナ・オール』が使えるからだ。

 かざされた手から生み出される白い光が傷口を癒やしていく。

 ちなみにモンスターが使えるのが魔法で、人が使えるのが魔術だ。

 詳しくは知らないけど魔力の出力方法が違うらしい。

「大丈夫ですか?」

「まあ、少しずつ慣れてきたかな。最初のダッシュでお尻が焼けることも髪型が変わることもなくなったし、岩も持てる数が増えてきた。格技だってまだ当たらないけどちょっとは避けられるようになったし」

 筋肉痛だって減ってきた。体も少しがっしりしてきた気がする。

 僕が満足そうにしてるとウィスプは寂しそうに微笑んだ。

「そう……ですか……。はい。治療は終わりました」

「ありがとう。これでまだやれるよ」

 僕が拳をグーパーしてから立ち上がり、フレアの元へと戻った。

 その途中ちらりと振り返ると、やっぱりウィスプが寂しそうにしている。

 心配かけてるなー。試験が終わったらちゃんとお礼を言わなきゃ。

 そうだ。服を買ったり外食したりしよう。まだお金もあるし、野菜だって育ってきた。

 そうしようと思いながら、僕は再びフレアと対峙した。

 フレアは腰に手を当てている。草原を流れる風が金色の髪を揺らしていた。

 こっちはくたくただって言うのに、汗一つかいてない。

「もう大丈夫? それなら今度はもうちょっと早くするよ?」

「……お、お手柔らかに…………」

 それから僕は人の体ってこんなに早く動くんだーと思いながらぶっ飛ばされた。

 うわー。今日も空がきれーだなー。

 もう何度僕はこの青空を見ているんだろうか?

 そしてこれから見ていくんだろうか?

 ああ……。死んだおじいちゃんが笑ってるぅー……。

 僕がドサリと地面に起きると、ウィスプが心配して駆けつけて来た。

「大丈夫ですか!?」

 慌てるウィスプの声を聞きながら僕はガクリと気絶した。

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