第19話

 訓練が終わったあと、僕らは小屋に戻ってお風呂に入った。

 お風呂なんてなかったんだけど、フレアとしずくが入りたいと言うので二人の力で作ってもらった。

 ドラゴンの姿になったフレアが尻尾で穴を掘り、しずくが魔力で石を敷き、周りの木で塀を作った。

 肝心のお湯はというと、フレアが地面を拳で叩くとなぜかそこから温泉が溢れてきた。

 無茶苦茶だけど、もう慣れたかな。

 かくして僕の小さな小屋の隣には分不相応の天然温泉ができたわけだ。

「うひいっ。しみるうー」

 僕はお尻を押さえながらもお湯に浸っていた。

 全身筋肉痛で痛い。生傷だらけだ。

 それでもなぜかその痛みを誇りたくなる。

 一生懸命頑張った証みたいな気がしたからだ。

 木の塀の向こうでは女子達が和気あいあいと話していた。

「おおー。なんでしずくの胸はそんなに大きいの?」

「さあ? 人の姿になった時なんて今までないからよく分からないわ」

「触っていい?」

「ちょ、ちょっとフレアちゃん」

「べつにいいわよ。こんなのただ重いだけから」

「じゃあ、えい! うわ! 柔らかいのに弾力があるー。おいしそー。あむ♪」

「ちょっと、歯をたてないでよ」

「ウィスプのはどうかなー」

「ひゃぁ! いきなりそこはだめですよ!」

「あはは♪ ウィスプの方が柔らかくてぷにょぷにょだね。あ、でもここはちょっと固いかも。こりこりしてるー。あむ♪」

「ちょっ、まってくだ……ひゃんっ! 吸っちゃダメですよぅ!」

 はあ~、生き返るなぁー。

 気を抜いたら理性が崩壊してしまう。もはや一種のメンタルトレーニングだ。

 僕はふーっと息を吐いて今後のことに思いを馳せた。

 訓練は大変だけど少しずつ体ができてきた気がする。農作業で鍛えてたつもりだけど、やっぱり戦う為の力は戦いでしか得られないらしい。

 フレアはスパルタだけど訓練相手としては申し分ない。なんせ最強の肉体を持つドラゴンなんだから。

 これ以上の相手はいないと言っても過言じゃないだろう。

 環境は恵まれてる。

 あとはなんとか試験まで生き残ることだ。僕は傷が見える腕を持ち上げ、そして拳を握った。

「僕の人生を変えるんだ! がんばるぞ!」

 するとまた隣から声が聞こえてくる。

「あはははは♪ ウィスプはここを触ると真っ赤になるからおもしろーい♪」

「ううぅ……。私もう、お嫁に行けません……」

「本当、人の体って不思議ね。柔らかかったり固くなったりするんだから。なにより気持ちいいわ」

 三人の会話は僕には刺激が強い。

 だけど聞かないようにするなんて無理だった。

 そのあともしばらくモンスター娘達は楽しそうに笑い合っている。

 その声を聞きながら、僕は精神を整える為、お湯の中にぶくぶくと潜った。

 明日も頑張ろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る